第738号コラム:舟橋 信 理事
(株式会社FRONTEO取締役、株式会社セキュリティ工学研究所 取締役)
題:「モバイル端末からの緊急通報時の発信位置測位について」

 現在、GPSによる位置測位機能は、スマートフォンや携帯電話など、ほぼ全てのモバイル端末に組み込まれている。本稿では、私が直接関与したモバイル端末に位置測位の機能が組み込まれることになった契機の一つである緊急通報時の発信位置測位の経緯について述べたい。

1990年代末、携帯電話の加入者数の急激な増加にともない、携帯電話からの110番通報件数が著しく伸びていた。固定電話からの110番通報件数をいずれ超えるものと予測し、1999年6月から、警察庁、関係官庁、携帯電話事業会社及び固定電話事業会社が一同に会した検討委員会の設置について関係部署と折衝を行った。

2000年9月に「移動電話からの110番通報に係る発信地表示システム検討会」を警察庁に設置した。この検討委員会において、次の2段階で整備を進める方針が示された。

フェーズ1:

 110番を発呼した携帯電話の電話番号を通信指令室の受付台に表示する。

フェーズ2:

 第3世代携帯電話の普及に合わせ、電話番号の他、発呼している位置を 緯度、経度で表示する。測位方式は各携帯電話事業会社の方式とする。

フェーズ1については、2002年度及び2003年度予算にて措置をされ、固定電話の発信位置表示システムが既に導入されている警察本部の通信指令システムに表示されるよう改修された。

フェーズ2については、2007年4月1日から一部の都道府県警察が運用を開始した。

総務省等においても、時期はずれるが以下の通り検討が始まった。

米国では、2001年9月11日のニューヨーク同時多発テロの後、米国において9.11の時の反省から、政府関係者専用のガバメント・ネットワークの必要性が取沙汰されていた。我が国も、これを受けて2002年4月、総務省に有識者及び電気通信事業会社関係者等を構成員とする「重要通信確保の在り方に関する研究会」が設置され、2003年7月に報告書が発表された。

この報告書の「5の(3)の④ 発信者位置表示システム導入に向けた取組み」に、発信者位置表示システムの円滑な導入を図るために留意すべき事項が盛り込まれている。要約すると次の通りである。

(1)通信の秘密やプライバシーの観点から発信者による意思確認が確実に おこなわれること。

(2)位置情報の取得方法や精度等については、特定の方法・基準を定めるのではなく、多様な方法によることを可能とすること。

更に、2003年8月のIT戦略本部決「e-Japan計画-2003」において、迅速かつ重点的に実施されるべき施策として盛り込まれたことから、2003年11月、情報通信審議会情報通信技術分科会に「緊急通報機能高度化委員会」が設置され、翌年6月に位置情報通知機能に係る技術的条件及び導入計画等について情報通信審議会答申がなされた。以下にその一部を抜粋する。

B 位置情報通知機能についての技術的条件

 ② 利用者の意思確認の方法

  a 緊急通報の場合は位置情報を原則通知し、通話ごとに通知を阻止する操作を行った場合のみ通知は行わないこととする。

 ③ 位置情報の構成

  a 緯度、経度、精度情報とする。指令台における音声通話と位置情報との結び付けのため電話番号も併せて送信する。

 ④ 測位方式

  a 測位精度の要求条件、半径15mを満たすためGPS測位方式を基本方式として具備する。

その後、緊急通報機能の高度化に係る規定の整備のため、「事業用電気通信設備規則」の改正(第36条の6)及び「事業用電気通信設備規則の細目を定める件」の改正(第4条第2項第三号)が行われ現在に至っている。

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