第110号コラム: 芝 啓真 氏(株式会社フォーカスシステムズ フォレンジックセキュリティ室)
題:「フォレンジック業界の再編?」

 仰々しいタイトルをつけてしまい少し後悔していますが、フォレンジック製品のメーカーの買収についての話題です。一体フォレンジック業界の再編とは何事かと思われた方、申し訳ございません。
 「Guidance Software」「Tableau」この二つの言葉を聞いてピンと来た人ももしかするといらっしゃるかもしれません。約一カ月前の2010年5月に、Guidance Software社がTableau社を買収したというニュースが報じられました。私にとっては最近一カ月で一番驚いたニュースでした。

 とはいえ、日本ではまだニッチなフォレンジック業界の話題のため、念のためそれぞれどのような会社なのか簡単にご説明させて頂きます。ご存知の方は飛ばしてお読み下さい。
 Guidance Software社は「EnCase」という調査解析ソフトウェアのメーカーです。EnCaseは、フォレンジック調査において世界中で使用されているソフトウェアの一つと言っても過言ではないと思います。一方Tableau社は、HDDやUSB、Firewire、各種メディアカードなどの書込み防止装置や、HDDデュプリケーターなどのメーカーであり、10万個以上の書込み防止装置の販売実績がある会社です。

 Guidance Software社は新たにフォレンジックビジネスユニットを新設し、Tableau社の社長がそのトップに就任しました。
 今後はそれぞれの製品をお互いに補完し合うような機能が追加されていくとのことですが、思い起こしてみますと、これまでにもEnCaseにおいてTableau社の書込み防止装置を使用していることを画面上で確認することができるようになったり、Tableau社のデュプリケーターでEnCaseイメージのサポート機能が追加されたりと、今回の買収を思わせるような出来事が確かにありました。

 ちなみに買収額は$12.3Mとのことです。この金額が高いか安いかは別と致しまして、ソフトウェアメーカーとハードウェアメーカーが一緒になったことにより、お互いの相乗効果を生かした製品が出てくるのではと思います。

 このようにフォレンジック業界においては比較的大きなニュースであったと思いますが、今後この様な一本化が進むとは私には思えません。ソフトウェアにおいて、EnCaseと比較されることの多いForensicToolkitもバージョン3をリリースしていますし、その他商用製品、フリーソフトウェアを含めそれぞれに特長があります。また使用目的や、ユーザーの好みによっても使用するツールも変わってきます。他にも一つの製品でなく複数の製品の結果を比較して、調査結果を補強することも考えられます。

 ついに続編の放送が先日決まったドラマ「JIN-仁-」の南方仁が、十分な医療器具のない江戸時代において、さまざまな道具を駆使して病気に立ち向かうように、調査に携わる人がさまざまなソフトウェア、ハードウェアを駆使してインシデントに立ち向かう光景は変わることはないと思われます。

【著作権は芝氏に属します】