第173号コラム: 丸山 満彦 監事(デロイト トーマツ リスクサービス株式会社
パートナー、公認会計士、公認情報システム監査人)
題:「想定外に対応するのが危機管理ではないか」
2011年3月に起こった東日本大震災では、「想定外の津波が生じた」、「原子力発電所の全電源喪失は想定外であった」といったような、想定外という言葉が良く使われているように思います。しかも、時には「想定外のことが生じたので私には責任はありません」といいたいような使い方をしている場合も見られるように思います。しかし、危機管理の視点から見た場合、「想定外であった」では済まされないのではないかと思っています。いやむしろ、想定外に対応するのが危機管理なのではないかと思います。
何かの対策を決める場合には、想定をおく必要があるのは理解できます。このような想定は対策を考える上での要件となります。たとえば、10メートルの津波を想定して堤防を構築するとか、震度7を想定した耐震設計に基づく建物の建設といったようなことです。しかし、想定をおくということは、想定外のことがおこらないことを保証はしていません。考えれば当たり前のことです。もちろん、想定は過去の事象や科学的な見地から想定されるもので、思いつきで考えたものではないことはわかります。しかし、想定をおくことと想定外が起こったときのことを考えないというのは、別の話だと思います。
リスクマネジメントのひとつに危機管理というものがあります。まさに危機が発生した場合にどのように対処するのかというのが重要となります。想定された危機への対応というのは本当の意味でいう危機管理ではないのではないかと思います。それは、想定に基づいた対策を計画通りにするだけに過ぎないからです。ある意味、通常業務です。本当の危機管理というのは、想定外でもなんとか対応するための対策を考えることなのではないかと思います。もちろん、想定外ですから事前にすべての準備ができるわけではありません。しかし、想定外のことが起こったとしても、そこにある資源を有効活用して復旧したり、事業継続をするのが重要なのではないかと思っています。
復旧については、その場その場での各人の協力が重要となると思います。そのためには、各人が普段から人任せにせずに自律的に考え、かつ協力して行動できる組織文化を養うことが重要なのではないかと思います。また、メンバー間の相互の助け合いということも重要となります。そのためには、メンバー間のコミュニケーションを普段からよくしておく必要もあると思います。
事業継続については、特定の脅威を想定した事業継続を考えるのではなく、業務プロセスに関係するリソースが100%でない場合にどのようにして、業務の優先順位をつけながら重要な業務を継続すべきかを考えるべきだと思います。シナリオを想定した事業継続ではなく、リソースに注目した事業継続が必要なのではないかと思います。
今回の東日本大震災では、私たちが普段考えていない多くのことを気づかせてくれたのではないかと思います。寺田寅彦の「天災は忘れたころにやってくる」というのは名言です。普段から危機を意識したマネジメントを心がける必要があると思います。
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