第240号コラム「さらに組織化が進むサイバー攻撃集団」

第240号コラム:丸山 満彦 監事
(デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 パートナー)
題:「さらに組織化が進むサイバー攻撃集団」

 サイバー攻撃にまつわるニュースは新聞の社会面でも大きく取り上げられるようになってきました。それだけ、サイバー攻撃が身近なものとなってきたということだと思います。

 日本政府が尖閣諸島を買い上げると閣議決定した9月半ばに、政府機関や裁判所といった国の機関、日本企業にサイバー攻撃が相次いだということもニュースとして報道されました。もちろん、日本ではあまり大きく報道されていませんが、領土問題については日本以外でも各国間で生じていますので、例えば、フィリピンやウクライナなど、政府機関等が攻撃を受けた事例は数多く存在しています。

また、横浜市のホームページに小学校襲撃予告が書き込まれ、少年が誤認逮捕された事件も、一種のサイバー攻撃といえます。この案件など、ニュースに上がっている攻撃の中には、一見高度そうに見えても、実は稚拙な攻撃のものもあります。今回の誤認逮捕の件では、捜査側の分析能力がある程度分かってしまったという点で問題かもしれません。

 いずれにしても、サイバー攻撃がこれほど身近なものになってきた背景というのは、サイバー攻撃の数が単純に増えたからのみならず、私たちの生活がますますコンピュータ・ネットワーク上の情報に依存してきており、サイバー空間が安全に利用できなくなると、日常生活にも不都合が生じることが肌感覚で分かってき始めたからではないかと思っています。

第239号コラム「チェックアウト・プリーズASAP その2:相続手続きにみるコンプライアンス偏重」

第239号コラム:林 紘一郎 理事(情報セキュリティ大学院大学 教授)
題:「チェックアウト・プリーズASAP その2:相続手続きにみるコンプライアンス偏重」

前回(コラム第215号)に引き続き、3月に母を失くして以来の顛末記のうち、相続手続きに関する報告である。前提として、90歳を過ぎた高齢者は、いくら自己管理の努力をしても、資産を全て自分で把握することは不可能であること、それどころか身近な通帳と印鑑でさえ(両者の対応関係を含めて)管理できていないものと、想定していただきたい。

相続人になったとき、誰しも最初に考えるのが、「税金を払わねばならないほどの遺産があるのか?」ということだろう。私の場合、父は他界して既に20年で、相続人は私と弟だけなので、非課税限度は基本の5千万円に、相続人1人当たり1千万円×2人で、合計7千万円であった。
数年前に、60年近く住んでいた各務ケ原(岐阜市郊外)から横浜に転居してもらったとき、旧宅(母の名義)を4千万円ほどで売ったので、それに近い金額は残っていると思われた。しかし、それ以外は年金生活なので、非課税限度に届くはずはない。
税金が関係しないなら、「物はためし」で相続の手続きを、全部一人でやってみることにした。弟に頼もうにも、青息吐息のベンチャーの社長に、そんな時間的余裕が無いことも、はっきりしていた。しかし、どれだけ時間と手間がかかるかもしれない。
そこで、偶然初期にコンタクトしたM銀行から、「弊社関連の信託会社で、相続手続きの代行もやっています」と誘われてもらったパンフレットに、「基本料金100万円+作業量比例」と書いてあるのを根拠に、「プロに頼んだら最低でも100万円はかかるのだから、私がその半額でやる」と宣告(?)して了承を得ておいた。

第238号コラム「リーガルプロセスにおけるバリューチェーンの変化」

第238号コラム:守本 正宏 理事(株式会社UBIC 代表取締役社長)
題:「リーガルプロセスにおけるバリューチェーンの変化」

 リーガルプロセスには証拠もしくは証拠とまでいかなくてもさまざまな状況における判断の材料としてのドキュメント情報が必要となることがあります。これまでは、あらゆるリーガルプロセスに関しては弁護士による作業に非常に価値がありました。なぜなら法律の専門家による分類、選択、判断が法的対応をするためには不可欠だからです。バリューチェーンのほとんどは法律事務所内にありました。

 しかしながら、最近はバリューチェーンが変化してきました。ITの発達により、企業のもつ情報のほとんどが電子データになったからです。特に書面情報が以前の時代に比較して電子データの情報量が圧倒的に多くなったことと、その取り扱いが高度に複雑になっていることによります。いまやハイテク技術がなくては、特に大量の電子データをもっている企業においては訴訟も戦えない時代になっています。
そしてITが発達するにつれ、高品質、高速転送技術などが進み、その容量は益々肥大化してきました。それに加え、暗号化技術の発達やさまざまなアプリケーション、データベース、ソーシャルネットワークの利用拡大等、その取扱いの複雑さも益々増大してきました。

第237号コラム「遠隔操作ウィルス事件が残した宿題」

第237号コラム:小向 太郎 理事(株式会社情報通信総合研究所 法制度研究グループ 部長 兼 主席研究員)
題:「遠隔操作ウィルス事件が残した宿題」

 遠隔操作ウィルスによる犯罪予告が誤認逮捕を生んだ事件には、多くの人が衝撃を受けたと思う。IDFコラムでは、既に本研究会副会長の安冨潔教授が取り上げられ、捜査機関のリテラシーを上げる必要性について述べられている。適確な指摘であり今後取り組むべき課題であることは疑いがない。それはそれとして、この事件の報に接してから、何となく落ち着かない気分を捨てきれないでいる。本件によって、今まで自分が十分考えてこなかった課題が、改めて問いただされているのではないかと感じるからである。

 まず、こういう言い方をするとお叱りを受けるだろうが、今回問題となったのは、ある種のたちが悪い「いたずら」である。単純な情報発信のみで成立する愉快犯であるが故に、証拠もネットワークとPC上に残されたデジタル情報に限られている。もし、金銭的な利益を得たり、人の生命身体を傷つけたりしていれば、犯人を特定する手がかりはもっと多くなったはずだ。冷静に考えれば、こうした情報発信を全て取り締まるのは、もともと難しいことが分かる。もちろん、深刻な被害につながる犯行予告があることは否定できない。しかし、取り締まりの対象をどのような範囲にすべきかは、議論があり得るであろう。