コラム第926号:「Mythos級のAIモデルの登場とCSIRTの憂鬱 」

第926号コラム:小山 覚 理事(NTTドコモビジネス株式会社  情報セキュリティ部 部長)
題:「Mythos級のAIモデルの登場とCSIRTの憂鬱」

私は重要インフラ事業者のCSIRT組織の責任者をしている。いま世間を騒がせている「Claude Mythos Preview」やOpenAIの新型モデル「GPT-5.5」など、Mythos級のAIモデルとどう付き合うべきか、考えだすと憂鬱なのだが、5月12日時点の情報に基づき、個人的な想像をかなり含んだコラムを書かせていただいた。信憑性はAI以上に低い前提で読み捨て頂ければ幸いである。

●はじめに:転換点としてのMythos
2026年4月に発表された「Claude Mythos Preview」は、サイバーセキュリティ分野の転換点が訪れたことを、世界中のセキュリティ関係者に知らしめた。
このAIモデルは、ソフトウェアの構造を理解し、自律的に脆弱性を発見し、さらに攻撃コードを書いて、エクスプロイトを成立させる能力を持つとされる。そして従来、専門家が時間をかけて行ってきた脆弱性調査やデジタル・フォレンジックは、このAIによって制御不可能な状態まで加速されていくだろう。

しかしMythos級AIモデルの本質はその性能ではない。
このAIが攻撃と防御の双方に転用可能なデュアルユース技術であることが、国家を含めた関係者に構造的な変化を引き起こしつつある。Mythos級AIモデルが登場した今、問題は「脆弱性を発見できるか」ではない。「大量に発見され得る脆弱性に、どう向き合うか」これが新たな問題である。プラスとマイナスの「リスク」への対応、これが私の憂鬱の始まりである。

コラム第924号:「広がるソフトウェアサプライチェーンリスク」

第924号コラム:寺師 悠平 幹事(株式会社NTTデータグループ 技術革新統括本部 Cloud & Infrastructure技術部 
情報セキュリティ推進室 NTTDATA-CERT担当)
題:広がるソフトウェアサプライチェーンリスク

 近年、生成AIの普及やクラウドサービスの高度化によって小規模なソフトウェア開発のハードルは大幅に低くなっています。生成AIによりコード生成が可能となり、外部ライブラリやサービスを組み合わせることで、専門的な知識が十分なくても、一定レベルのシステムを構築できる環境が整いつつあります。こうした背景から、今までソフトウェア開発に馴染みがなかった人も個人開発に取り組むようになってきています。一方で、この利便性の向上と引き換えに、ソフトウェアサプライチェーンを狙った攻撃が現実的なリスクとして顕在化しています。
 こうした脅威の高まりを象徴するのが、2026年に入ってからの動きです。特に2月から3月にかけての短期間において、複数のソフトウェアサプライチェーンに関連するインシデントが相次いで報告されました。コンテナセキュリティツール「Trivy」、AI関連ライブラリ「LiteLLM」、JavaScriptライブラリ「Axios」などが侵害され、開発者が日常的に利用するツールやライブラリが攻撃対象として狙われている実態が浮き彫りになりました。
 こうしたソフトウェアサプライチェーン攻撃の特徴は、「信頼して利用しているもの」がいつの間にか侵害されている点にあります。正規のリポジトリやパッケージ、アップデート経路を通じて不正なコードが取り込まれるため、利用者側からは異常に気付きにくく、侵害環境で窃取された認証情報が攻撃者によって悪用されることで、被害が拡大していきます。