コラム第940号:「認知的多様性」
第940号コラム:熊平 美香 監事(一般財団法人クマヒラセキュリティ財団 代表理事)
題:認知的多様性
認知的多様性とは何か
「多様性」という言葉から、性別、年齢、国籍、文化的背景などの違いを思い浮かべる人は多いでしょう。しかし、組織が多様性を価値創造につなげるうえで、もう一つ重要なのが「認知的多様性」です。
認知的多様性とは、同じ情報や出来事に接しても、人によって「何に注目するか」「どのように意味づけるか」「どのように判断するか」が異なることを指します。言い換えれば、「ものの見方・考え方の多様性」です。
私たちは、経験、知識、専門性、価値観、関心、立場などによって、異なる「認知の枠」を通して世界を見ています。例えば、新規事業への投資を検討するとき、財務担当者は収益性やリスク、営業担当者は顧客ニーズ、技術者は実現可能性に注目するでしょう。
認知的多様性の価値は、こうした異なる視点を持ち寄ることで、一人では見えなかった現実を、より多面的に捉えられることにあります。
なぜ今、認知的多様性が重要なのか
第一に、正解のない問題が増えていることです。市場やテクノロジー、顧客ニーズが急速に変化するなか、過去の成功体験や一つの専門性だけでは解決できない課題が増えています。異なる視点を持つ人々が問いや仮説を持ち寄り、答えを共につくることが求められています。
第二に、イノベーションの重要性が高まっていることです。イノベーションは、それまで結びついていなかった知識、経験、技術、ニーズなどの新しい組み合わせからも生まれます。異なる視点との出会いが、「その見方はなかった」「前提を変えれば別の可能性がある」という気づきを生み出します。
第三に、生成AIの普及です。知識へのアクセスが容易になるほど、人間には、何を問いとするのか、何に注目するのか、情報をどう意味づけ、新しい価値につなげるのかが問われます。AIが多くの選択肢を提示できる時代だからこそ、人間同士の認知の違いを活かし、問いや可能性を広げることが重要になります。
認知的多様性を活かす場所と機会
認知的多様性は、新規事業や商品開発、問題解決など、さまざまな場面で力を発揮します。
例えば、売上低下という同じ問題でも、「営業力の不足」「商品の問題」「顧客ニーズの変化」など、立場によって捉え方は異なります。問題の捉え方が変われば、解決策も変わります。
また、1on1やチームミーティング、振り返り、研修なども重要な機会です。「私はこう見ているが、あなたにはどう見えるか」と問いかけるだけでも、自分の認知の枠を広げることができます。
認知的多様性を活かすための4つのポイント
多様な人を集めるだけでは、認知的多様性を活かすことはできません。重要なのは、違いがあること」ではなく、「違いから学べること」です。
第一に、自分の認知を絶対視しないことです。「自分にはこう見えているが、別の見方もあるかもしれない」と考えることが出発点です。
第二に、評価・判断を保留して聴くことです。異なる意見をすぐに否定せず、「なぜその人にはそう見えるのだろう」と、その背景にある経験や価値観に耳を傾けます。
第三に、心理的安全性をつくることです。リーダーが「私が見落としていることはありますか」「反対の立場から見るとどうでしょう」と問い、異なる意見を歓迎する姿勢を示すことが大切です。
第四に、違いを統合し、新しい可能性をつくることです。「AかBか」ではなく、「AとBの視点を組み合わせると、どんな新しい選択肢が生まれるか」と考えます。
「違い」を価値に変える
多様性の価値は、多様な人が「いること」だけでは生まれません。その人たちの経験や知識、価値観が、異なるものの見方として表出し、互いの学びにつながったときに、初めて価値になります。
「私は何を見ているのか。そして、何を見ていないのか」
「この人には、なぜ私とは違う世界が見えているのか」
「異なる視点を組み合わせることで、どのような新しい可能性が見えてくるのか」
こうした問いを持ち、自分の認知の枠を広げていくことが、認知的多様性を価値創造につなげる第一歩です。
正解が明確ではない時代だからこそ、異なる認知を持つ人々が互いに学び、よりよい答えを共につくる力が求められています。認知的多様性とは、単なる「考え方の違い」ではなく、新しい価値を生み出すための大切な資源です。違いを避けるのではなく、違いに好奇心を持つ。そんな気持ちで、ぜひ対話を楽しんでください。
※著作権は、熊平氏に属します。
※本稿は筆者の見解であり、IDFの見解を示すものではありません。

