第270号コラム「薬害対応とデジタル・フォレンジック」
第270号コラム:秋山 昌範 理事(東京大学 政策ビジョン研究センター 教授)
題:「薬害対応とデジタル・フォレンジック」
イノベーションなどの新しい国家施策が示され、iPSなど医療分野でもイノベーションが期待されている。医療分野における研究開発の最初は、山中教授が行っているようなラボの中での基礎研究、その次が前臨床というプロセスで、動物実験等を行う。ここまでは日本の得意分野だが、次の臨床研究になるとヒトへの研究を対象とし、今まではこの基礎と臨床の間にデスバレー(死の谷)があった。さらに、この最先端臨床研究と次の実用化(普及)の間にもっと大きなデスバレーがあり、医療については他の産業分野よりもはるかに大きな谷がある。どの分野でも大事だが、特に医療においては人命が第一であるので、まず動物で実験し、次いでヒトに応用する。ヒトを使う際の最大の制約は、倫理の問題とともに、経済的問題である。どんな産業でも同じだと思うが、出始めの最先端技術では、たとえ性能は良くても、多くのリスクが潜んでいる。
できるだけ早く普及させたいが、初期ロット不良はよくあるので、急速な普及にはリスクが伴う。したがって、初期の段階では慎重に投与する必要があるが、普及が遅いと新薬が必要な患者であっても、その恩恵が受けられない場合が出てくる。海外ではそのトレードオフ対策として、新薬承認後の初期段階においては限られた医療機関の恵まれた患者のみが最先端の治療を受けられるようになっている。別の言い方をすると、すべての市民が最先端医療を受けられるわけではない。
