コラム第944号:「AIにより生成された児童ポルノについて」
第944号コラム:石井 徹哉 理事(明治大学法学部 専任教授)
題:AIにより生成された児童ポルノについて
この6月4日に名古屋地方裁判所は、AIにより生成された自動の姿態の画像について、児童ポルノにあたると判断しました。この判断について、具体的な事案を捨象して、生成AIにより作成された影像すべてが児童ポルノに該当するとの言説がSNSやネットニュースの解説において見受けられますが、事案や裁判所の判断を無視しているように思われます。
まず、前提として重要なことは、当該事件において、被告人も弁護人も起訴された事実について争っていないばかりか、問題となった児童ポルノに関する法解釈についても争っていないということです。また、児童ポルノに係る罪となるべき事実について、裁判所は、検察官の公訴事実をそのまま是認して、次のように述べています。
「被告人は、自己の性的好奇心を満たす目的で、令和7年3月10日、前記被告人方において、インターネット上の画像編集サイトを用いて編集・加工された、あたかも殊更に各児童(略)の胸部及び陰部が露出された姿態を描写したものであるように認識される静止画2点の画像データを記録した電磁的記録に係る記録媒体を内蔵した携帯電話1台を所持し、もって衣服の全部又は一部を着けない前記各児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した前記画像データを記録した児童ポルノである前記記録媒体を所持した。」
また、量刑理由において、次のように述べています。
「被告人は…学校活動の過程で撮影された複数の女子児童の写真を(略)のメンバーに共有した上、同メンバーがAIを利用した画像編集サイトで作成した女子児童らの裸の画像2点を所持したものであり、女子児童らの性的画像が拡散、悪用される可能性がある危険な状態を作出した。女子児童らの裸の画像については、身体部分はAIによって描写されたものであるが、被告人が担任をしていた実在の女子児童の写真を使用し、顔貌部分やポーズは元の写真と同一であって、一般人が見れば当該女子児童の裸の姿態が撮影されたものであると誤信するに足りる精巧なものであった。」
量刑理由で説明されていることから推察されるのは、本件で問題となった画像がいわゆる脱衣型の生成方法であり、おそらく実在の児童の着衣の写真データを素材として、生成AIにより着衣がない状態の画像を生成したものではないかと推察されます。このような場合、実在の児童の容貌だけでなく、その体躯についても着衣の有無の違いがあるだけである。生成された画像の内容が実在する児童の実際の裸体とまったく同一ではないが、体躯が同一である以上、実在児童の姿態との同一性を十分に推認させうるものといえます。
これに近接する事案は、1980年代に出版された実在する18歳未満の者の写真集の、衣服をまったく身につけていない状態の姿態を描写した写真の画像データを素材とし、画像編集ソフトによりCGの画像データを作成したというものがあります。本件で、東京高裁(東京高判平成29年1月24日高刑集70巻1号1頁)は、児童の写真を素材にしたCG画像等における描写が、写真の被写体である児童を描写したといえる程度に、被写体と同一であると認められるときは、まったく同一の姿態、ポーズがとられなくても、「児童の姿態」にあたるといえるとしました。ここでは、実在の児童を描写したといえる程度に同一であることがあれば足りるとされています。そうすると、AIにより生成された影像であっても、実在の児童を描写したといえる程度に同一であるといえる程度の影像が生成されていれば、児童ポルノに該当しうるといえます。この限りで、生成AIにより生成された画像データは、実在の児童の性的な姿態を描写したものと評価でき、児童の性的な姿態の記録化として性的虐待の相当するものと解することができます。
これに対して、アイコラのように顔の部分のみを他のポルノ画像とすげかえる方法で生成されたもの、実在する児童の容貌を学習させ、これをもとにポルノ影像を生成した場合は、描写された影像について実在する児童との同一性が肯定できないことから、実在する「児童の姿態」を描写したものとはいえないと、なお介する余地が十分に残っています。したがって、こうした場合をもなお当罰性・要罰性があると考え、処罰の対象とするには、立法的な解決が処罰範囲の明確化の観点からも適切ではないかと考えられます。また、上記名古屋地裁の判断も、法解釈・適用について争いがなく、裁判所が検察官の判断をそのまま是認していることから、判例としての意義を認めるのも難しいのではないかと考えられます。現在、実在の児童の容貌を利用した児童ポルノについて、政府で検討が進められていますが、こうしたことも踏まえつつ、緻密な立法的解決がなされることが望ましいといえます。
【参考】
以下参考までに、鳥取県の青少年保護育成条例の立法を簡単に説明します。なお、このような立法が望ましいというわけではありません。
鳥取県は、2025年に青少年保護育成条例を改正し、「児童ポルノ等」を児童ポルノ処罰法にいう児童ポルノだけでなく、「生成AIその他の情報処理に関する技術を利用し、青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る。)を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録及びその記録媒体を含む。」とした(10条9項)。その上で、18条の3において、「何人も、児童ポルノ等の作成又は製造(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる作成又は製造を含む。)をしてはならない。」(1項)とし、また、「何人も、SNSの利用その他の手段により児童ポルノ等の提供(県内に居住し、又は県内に通学若しくは通勤する青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態に係る児童ポルノ等について本県の区域外で行われる提供を含む。)をしてはならない。」とした(2項)。その上で、18条3第1項及び第2項の違反については、5万円以下の過料を課すとしている。さらに、18条の3第3項で「知事は、前2項の規定に違反した者に対して、期限を定めて、当該児童ポルノ等の廃棄、削除その他の必要な措置をとるべきことを命ずることができる。」として、児童の保護を図っている。本条例では、容貌を忠実に再現したものと認識できること、又は、容貌の画像情報を加工した姿態を対象とするものとなっている。
※著作権は、石井氏に属します。
※本稿は筆者の見解であり、IDFの見解を示すものではありません。

