第206号コラム「医療イノベーションとデジタル・フォレンジック」

第206号コラム:秋山 昌範 理事(東京大学 政策ビジョン研究センター 教授)
題:「医療イノベーションとデジタル・フォレンジック」

最近、医療イノベーションという言葉が散見されるようになった。これは平成22年9月7日閣議決定された「新成長戦略実現会議の開催について」に基づき、産官民が協力して実用化に向けた医療研究開発の推進を始めることで、最新の医療を提供するためのイノベーションの一つである。この実現のためには、基礎研究段階から臨床応用への円滑な移行を担うトランスレーショナル・リサーチ(TR;橋渡し研究)という仕組みが必要になる。そこでは、研究者が薬剤や器具を用いて行ってきた基礎研究成果を基盤に、新たな疾患の予防や治療、診断等の開発を目指し人への臨床応用を研究することが重要である。すなわち、人へ臨床応用することが科学的に妥当であると、基礎研究である実験動物を用いた初期の非臨床試験の段階でも適切に確認しておくことが重要となる。特に遺伝子治療や再生医療といった先端生命科学研究の応用においては、従来の方法では効果や安全性を予測することが困難であり、臨床応用の妥当性を十分に説明するだけでなく、社会科学的見地から、臨床応用における被検者の尊重や社会的責任等、これまで以上の倫理的配慮を重要視されるようになる。

第205号コラム「フラッシュメモリーとフォレンジック」

第205号コラム:大谷 尚通 幹事(株式会社NTTデータ 技術開発本部 セキュリティ技術センタ シニアエキスパート)
題:「フラッシュメモリーとフォレンジック」

スマートフォンやタブレットが爆発的に普及し、個人や企業を問わず積極的に使われ始めています。私も、64GBモデルのiPod TouchとiPad2を愛用しています。前者の記憶容量の大部分は購入した音楽CDのデータで、後者の大部分は自分で撮影した写真データで占領されています。フラッシュメモリーの大容量化と低価格化がなければ、64GBモデルは購入できなかったでしょう。フラッシュメモリーが手軽に使えるようになった一方で、フラッシュメモリーへデータを書き込んだり、書き換えたりするたびに、気になっていることがあります。本コラムでは、フラッシュメモリーのフォレンジックについて、気になっている点をお話します。

■スマートデバイスの普及に潜む罠
スマートフォンやタブレット(以下、「スマートデバイス」という。)の企業内への導入が進んでいます。持ち運びやすく、機能も充実し、操作しやすいため、ノートパソコンに代わって、家庭内だけでなくビジネスへの活用も急速に進んでいます。スマートデバイスは、その計算能力やデータ蓄積機能などから、ほとんどコンピュータと変わらないと言われていますが、デジタル・フォレンジックの観点において、大きく異なる点があります。スマートデバイスは、小型軽量化するためにハードディスクではなくフラッシュメモリーを使用しています。そして、フラッシュメモリーには、ハードディスクでは基本的に発生しない、フラッシュメモリー特有の問題があります。スマートデバイスだけでなく、Solid State Drive(以下、「SSD」という。)もフラッシュメモリーを利用しています。SSDを搭載したコンピュータも、同様の問題を持っています。以下に、フラッシュメモリーについて、気になっている問題点4つと対策案1つをお話します。

第204号コラム「デジタル画像とフォレンジック」

第204号コラム:上原 哲太郎 氏(総務省 情報通信国際戦略局通信規格課 標準化推進官、IDF会員)
題:「デジタル画像とフォレンジック」

ご無沙汰いたしております。前回コラムを担当させていただいた際にご挨拶した通り、昨年10月から総務省に移って半年ほどが経ちました。慣れない官僚仕事ではありますが、なんとか元気にやっております。デジタル・フォレンジック研究会の理事からは退きましたが、またコラムを書かせていただく機会をいただき、感謝いたしております。

いきなり私事から始めますが、昨年末に、デジカメを買い換えました。F600EXRが型落ちになりかかっていて、2万円まで下がっていたので衝動買いしてしまいました。さらに勢いで、無線LAN付きSDカードのEye-Fiも買いまして、毎日写真を撮りためています。手軽に質の高い写真が撮れて、カメラのGPS機能により場所と時刻が記録でき、しかもEye-Fiによって自動的にパソコンとクラウドに転送され日付別に整理されているとなるとなかなか快適で、スマホで撮るのも併せるとおびただしい数の日常写真が蓄積されていくようになりました(毎日10枚前後)。こんな状況になっておられる方は多いのではないでしょうか?

このようにライフログデータとして蓄積されたデジタル画像は、人の行動の記録を多く残しているという意味でフォレンジックの対象としての重要性は増してくるでしょう。そこで今回は、デジタル画像をフォレンジックの対象とする際の技術的課題について、思いつくまま五月雨に並べてみます。

第203号コラム「IPv4/v6共存環境下でのネットワーク・フォレンジック」

第203号コラム:佐々木 良一 会長(東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科 教授)
題:「IPv4/v6共存環境下でのネットワーク・フォレンジック」

最近、新しいタイプのサイバー攻撃が、政府や企業にとって大きな脅威となってきているのはご存じのとおりである。従来の攻撃が不特定多数を対象にするのに対し、新しい攻撃は重要性の高い組織や個人を標的に、執拗かつ継続的に攻撃を行う。攻撃の多くは国家の指示または資金援助によって実施されていると言われている。過剰に反応すべきではないが、平時のサイバー戦が既に始まっているという認識は持たざるを得ないだろうとも思う。

ご存知のように三菱重工や衆議院への攻撃は以下のようにして行われた。
〈①初期侵入段階〉いかにも本物のように偽装したメールを、狙いをつけた個人のパソコンに送るメールの添付ファイルには、ウイルスが含まれており、不用意に開くと、感染する。
〈②侵入範囲拡大段階〉ウイルスは、外部から新しい攻撃命令を受けたり、「武器」に相当する
プログラムをダウンロードしたりしながら増殖する。侵入したパソコンがつながったネットワーク内に、攻撃を受けやすい欠陥があると、そこを通じて次々にサーバーやパソコンを感染させ、命令通りに動くようにしていく。
〈③目的達成段階〉ウイルスに感染したサーバーなどから機密情報を取り出し、各種の手段で外部へ送り出すなどの不正行為を行う。