第249号コラム「ネット犯罪や迷惑行為と対峙する通信事業者の役割とは?」

第249号コラム:小山 覚 理事((株)NTTPCコミュニケーションズ カスタマサービス部 部長)
題:「ネット犯罪や迷惑行為と対峙する通信事業者の役割とは?」

2月10日PC遠隔操作事件で、都内の男が威力業務妨害容疑で逮捕された。デジタル・フォレンジックの技術やノウハウを駆使して容疑者に迫っていく様子は、IDF関係者の皆さんの脳裏に浮かんていたに違いない。

通信事業者(ISP)は「通信の秘密」を堅守し、プライバシーにも配慮しながら、問題解決に取組む人や組織に協力しているが、秘匿性の高いサイバー空間では、迷惑行為や犯罪行為と知りつつ、注意されても止めないユーザも少なからず存在する。このコラムでは、ISP(インターネットサービスプロバイダ)が開設しているabuse窓口をご紹介することで、ISPの取組みをご説明したい。

●abuse窓口とは?

インターネットの迷惑行為等に対応するISPの窓口は、世界共通で「abuse:アビューズ」と呼ばれる。ネットワーク上の迷惑行為またはその迷惑行為を通報する窓口を指す用語としてISP業界では定着している。

abuse(アビューズ)窓口には、掲示板等への公序良俗に反した書き込み、ウィルスのまき散らしやスパムメール対策まで、ISPの契約者による迷惑行為への苦情や相談が毎日大量に舞い込んでくる。また捜査関係事項照会等の法執行機関の窓口も兼ねている場合が多い。

国内外のISPがお互いのabuse窓口を通じて連携し、ウィルスをまき散らすサーバ管理者に通報し対策を支援したり、連絡が取れない場合は緊急性を鑑み、送信防止措置を行うこともある。

もちろん各国の国内法に準じた範囲での対策となるので、世界中が同じ動作が出来るわけではないが、競合関係にある民間企業が世界規模で連携するabuse窓口が出来た背景には技術や運用ルールの標準化がある。

第248号コラム「“MASAMUNE”の挑戦」

第248号コラム:沼田 理 氏(株式会社データサルベージコーポレーション)
題:「“MASAMUNE”の挑戦」

【“MASAMUNE”ってなに?】

“MASAMUNE”とは、弊社が開発した、Software Duplicator of the DR (Data Recovery), by the DR, for the DR (データ復旧屋による、データ復旧のための、データ復旧屋が電子記録媒体を複製するためのツール。弊社ではあえて、ソフトウェア・デュプリケータと呼びます)です。

データ復旧(DR)の世界でも、デジタル・フォレンジック(DF)の世界の証拠保全と同じように、お預かりした電子記録媒体の原状の保全を目的としてクローンを作成し、実際のデータ復旧作業(論理処理)はクローンに対して行うことが基本になっています。

クローンとクローン元(オリジナル)の媒体との整合性をハッシュ値などによって証明することは必要とされていませんが、それ以外に必要とされる機能・要件については、ほとんど同一といえると思います。

注:“MASAMUNE”のDF版では、ハッシュ値算出機能も追加されています。

【何故新規開発したのか?】
電子記録媒体のクローンを作成する、または証拠保全を行うツールは既に種々存在している現在の状況において、何故“MASAMUNE”を新たに開発する必要があったのでしょうか?
データ復旧の現場から、実際のデータを基に説明すると、「ハードディスクドライブ(HDD)ほど問題点の多い不完全なものは存在しないと言い切っても良い状態である」ことにあります。
データ復旧を目的として持ち込まれるHDDの障害を、受付頻度の高いものから順番に挙げると、1位:リードエラー、2位:ファームにまつわる障害、3位:ヘッドの障害、4位:バッドセクタとなります。
リードエラーとバッドセクタの区分は、
・リードエラー:データ復旧業者の専用設備・手法によって、読み出すことが可能であり、使用されている部品等には物理的な故障の存在しないセクタ(回復可能)。
・バッドセクタ:明らかにプラッタの物理的な特性の劣化や傷などによって、読み出すことが不可能なセクタ(回復不能)。
となり、そのリードエラーの占める割合が全体の半数以上もあるのです。

第247号コラム「個人の信頼性確認」

第247号コラム:坂 明 氏(国土交通省 大臣官房審議官 自動車局担当、IDF会員)
題:「個人の信頼性確認」

最近、「内部犯行」「内部脅威」という語をよく聞くように思う。考えてみると、敵にスパイを送り込んで内部工作を行うといったような「内部犯行」は古より行われてきたと言えるし、様々な内部対立による妨害活動等も枚挙に暇がない。日本においては、終身雇用制や年功序列制を基本として営まれている企業風土、従業員の企業に対する忠誠心等があり、内部者による脅威の懸念はきわめて少ない、との認識が存在していた【注1】。しかし、歴史的にみれば終身雇用や安定した年功序列のような制度は特定の条件下で一時的に存在したものと言え、それらの前提が崩れた現在の日本では、内部犯行の問題が立ち現れてくることは当然かもしれない。平成21年(2009年)に辻井重男先生ご指導の下、サイバー犯罪における内部関係者による事案の調査を行った経験【注2】からすると、時代性を持った犯行も確かにある一方、社会的な風潮はともかく一定の環境下では起こり得る犯行形態もあり、過剰に事案を時流のせいにすることもどうかと考えている。

 内部脅威への対応については、政府機関・重要インフラ企業・民間企業等で、対策の理由やレベル、取り得る手段が異なる。最高度のセキュリティが求められる場の一つとして、原子力施設がある。本年平成25年1月26日(土)の読売新聞朝刊一面には「原発作業員に身元調査」との見出しの記事が掲載された。原子力規制委員会が原子力施設のテロ対策に関する専門家の検討会を来月(つまり平成25年2月)に新設し、対策の強化に乗り出すことを決めた、との内容だ。この記事にある「専門家の検討会」は、正式には「核セキュリティに関する検討会」という名称であり、昨年平成24年12月19日の原子力規制委員会で設置が決まり、本年平成25年1月30日には設置要綱が決定されている。この検討会では、今後の課題とされている(1)核セキュリティ文化の醸成、(2)信頼性確認制度の導入、(3)設計段階からの核セキュリティの考慮等について検討することとなっている。新聞記事で「身元調査」の義務化とあるのは「信頼性確認」制度のことである。

第246号コラム「eディスカバリ雑感  -実務家の視点から、最初の数年を振り返って」

第246号コラム:橋本 豪 氏(西村あさひ法律事務所 弁護士、IDF会員)
題:「eディスカバリ雑感  -実務家の視点から、最初の数年を振り返って」

2006年に米国連邦民事訴訟規則が改正され、eディスカバリ関連の規定が盛り込まれてから、早や6年以上の月日が経ちました。その間、東京を活動の拠点としながら米国訴訟に携わってきたものとして、本コラムの執筆の機会を頂いた際に、これまでeディスカバリについて、筆者が見聞、経験してきたところをここで振り返ってみることも無駄ではないのではないか、考えましたので、以下に記してみたいと思います。いわゆる独断と偏見に満ちたミクロ的な備忘録でございますので、マクロ的な観点からご覧頂くと、バイアスがある虞がかなりあるであろうと危惧しますが、ご容赦のほどを…。なお以下では、特に断らない限り、米国における、米国連邦民事訴訟規則を前提とした記述であること、お含み置き頂ければと存じます。

厳密に言うと、題にあります「最初の数年を振り返って」というのは不正確かもしれません。というのも、民事に限ってみても、2006年よりかなり以前から、訴訟実務として裁判所と弁護士とが共同で、膨張し続ける電子データにどのように対処していくべきか苦慮しつつ、事実上のルールを作ろうとしていたのも事実だからです。たとえば、この分野で初期の判決として名高いZubulake 判決などは、上述の2006年改正以前の裁判所の判断(※1)です。米国法におけるディスカバリの対象範囲が、もともと非常に広いことともあいまって、実は、かなり前から対応に苦慮していた法律家の側からの、急速に発展する情報技術に対する答えが、2006年改正であったとも考えられるでしょう。ですから、「最初の数年」は便宜上そう申し上げたということでご理解いただければと思います。