コラム第948号:「プロンプトフォレンジックと企業の文書管理規定」

第948号コラム:池上 成朝 幹事(株式会社FRONTEO/IDF 安全保障提言WG 幹事)
題:プロンプトフォレンジックと企業の文書管理規定

 先日、久々に米国弁護士と日本企業を訪問する機会がありました。デジタルフォレンジックのテーマで日本企業を訪問すると、必ず文書管理の話題になるのですが、今回は「プロンプトの証拠をどう扱うべきか」とのトピックで議論が活発に進みました。

 数年前から米国では、刑事事件においてプロンプトの情報を有効な証拠とし、有罪と確定する事案が多く報道されており、それが拡大し民事裁判でも証拠として採用されている事例が増加中であると弁護士から話されました。
 そのため、これ迄のメール・チャットやオフィスファイルに加え、プロンプトも証拠開示要求される事案が増え、まず「出す、出さない」の議論が白熱するようです。これまでのキーワードでのフォレンジックと比べて、よりカストディアンの意思がはっきり表現されるので当然だと思います。
 
 その後、企業法務担当者と弁護士の文書管理の質疑応答を聞いていると米国で代理人同士の「プロンプト出す・出さない」議論が白熱する理由が次第に理解できてきました。
 弁護士によると、米国ではクライアントに対して1週間ごとに必要/不要なファイルを自分で仕分けして、3か月ごとに消去し、訴訟になった際に提出する情報量を削減するように推奨しているとのことでした。
 意図的にまずいものを消すのではなく、自分の仕事に本当に必要な物だけを残すというコンセプトのようでした。このプロセスを「フォルダリング」と呼んでいました。

 一方プロンプトは、自分や周囲の業務ワークフローに立ち返って考えてみると、メールやファイルのように必要/不要を簡単に仕分けられるフローがまだ整備出来ていないのではないかと感じました。AI利用ポリシーを持つ企業はかなり増えましたが、プロンプトの保存・廃棄・証拠保全までを体系的に規定した文書管理規程はまだ成熟途上にあると感じました。

 そのため憶測にはなりますが、双方の代理人の議論の結果プロンプト情報も開示となった場合、事案に関係のないプロンプトも相手方に開示され、証拠開示のターゲットが発散し証拠開示の範囲も収集がつかなくなる可能性が高いと感じました。

 デジタルフォレンジックの実務現場で日々過ごし、簡単にプロンプトが抽出され、それが重要な証拠として時に議論される現場を見て、これ迄のメール、チャット、オフィスファイルだけの「何を作った」という観点の文書管理だけではなく、「AIに何を指示したか」も重要な業務遂行書類として、規定に明確にプロンプトや生成AIとのやりとりが位置付けられる日が近いと考えました。
 今後、新たな規定が整理されていく中で、プロンプトにも「フォルダリング」のコンセプトが広がり、「必要なものだけを残す」といった機能が追加されていくのかもしれません。
 このような時流の中で、有事における不必要な議論、証拠開示を減らし、早期に真理を示す証拠発見のための効果的なフォルダリングや文書管理の技術にはまだまだ発展の余地が多く残っているのではないでしょうか。

※著作権は、池上氏に属します。
※本稿は筆者の見解であり、IDFの見解を示すものではありません。