第187号コラム:守本 正宏 理事(株式会社UBIC 代表取締役社長)
題:「第8回デジタル・フォレンジック・コミュニティのテーマに想う」

昨年、尖閣諸島沖で発生した中国船による巡視船への衝突を撮影したビデオの流出事件、検察によるFD改ざん、大相撲八百長事件、直近だと大企業による資産の不正利用等、さまざまな事件が発生するたびに、デジタル・フォレンジックが注目されてきました。しかし、デジタル・フォレンジックがどのような場所で活用されているのか等の実態は、意外と知られていないように思います。
そこで、実際にどのような場面でデジタル・フォレンジックが活躍するのかをまずご紹介したいと思います。

1 不正調査 
会社で使用しているパソコンやサーバーにある電子データを解析することによって、誰が、いつ、どのような手段で、何をしたか?なぜ発生してしまったのか?あるいは実は発生していなかったのか?などを分析し、今後の方針を判断し、適切な対応をして危機を乗り越える支援をする際に使われます。

2 米国民事訴訟
米国を係争地とする訴訟においては、相互に証拠を開示するディスカバリという手続きがあります。訴訟に関係のある人が持つ電子データ等のドキュメントを収集し、ハイテクを使い分析・抽出します。さらにその抽出したデータを弁護士・パラリーガル等によって実際に人の目で判断するドキュメントレビューを行い、最終的に証拠物を相手方に提出します。係争の種類としては、知財訴訟、PL訴訟、契約上のトラブル、労務的な問題など多岐にわたっています。
 
3 政府系の調査
メキシコ湾での原油流出事故、日本車の急加速の問題、価格カルテル等に対する当局の調査においても企業がその実態を報告するために民事訴訟におけるディスカバリと同様の証拠開示を実施します。業界大手企業同士のM&A時においては世界シェアを大幅に拡大し、その結果、市場独占し自由競争を妨げる可能性がある場合は、独禁法当局に対し同様な証拠開示を行います。

4 デューデリジェンス
M&A時のデューデリジェンスにおいて大量のドキュメントレビューをする際に活用します。さらにリスク調査が必要になった際にはメール等の調査も行います。また、企業倒産等においては、隠し資産の有無等の調査にも活用されます。
  
5 保険
 損害保険等の保険金支払いにおいて、該当の事件、事故の内容を調査し、損害額及び過失があったかどうか、それはなぜ発生したか、そもそも保険金を支払うことが適切なのかどうかを調べる際に活用されます。

 いずれの事例も実際に私が経験した事例であり、これらの事例以上にデジタル・フォレンジックが活用されている例はまだまだ数多く存在します。

 これらを大きくわけますと、デジタル・フォレンジックは、電子データを証拠として取扱うための技術(鑑識)という側面と、電子データはそもそも情報量がやたらと大きく、かつ取扱いが複雑であるので、それを簡単に取り扱えるようにサポートする技術であるという二つ側面があります。

 特に後者を考えると、電子データを取り扱うありとあらゆる場面でデジタル・フォレンジックの技術が活用することができるということになります。世の中に電子データが溢れ、企業活動の中で電子データを取り扱う機会が増えています。そこで容易に、短時間で大量のデータを取り扱う技術の必要性は益々高まってきました。実は、デジタル・フォレンジックはすでに多くの場面で活用されており、今年のコミュニティのテーマが“実務適用が広まった”というものも現在の状況を反映しているものだと言えます。

 私たちは、今年のコミュニティ2011を通じ、法執行機関や裁判の場で必要としている鑑識技術に加えて、広い意味でのデジタル・フォレンジックの活用イメージをしっかり持つことができたと思います。
そして、それを今後どのように実用化していくかをIDF会員の皆様と共に検討、整備していく必要があると考えています。

【著作権は守本氏に属します】