第188号コラム:宮坂 肇 理事(NTTデータ先端技術株式会社 セキュリティ事業部 
セキュリティソリューションBU)
題:「激動の一年を振り返る ~絆の重要性~」

今月12日に毎年恒例の日本漢字能力検定協会による今年の漢字が発表されました。今年の漢字は「絆(きずな)」でした。今年一年を象徴し、いま日本で一番大切な漢字でもありとても感慨深く思われます。

さて、今年一年を振り返ると、さまざまな事案が多く発生し、日本政府、企業、国民にとっても激動の一年であったと言えるのではないでしょうか。主だった事案を振り返ってみたいと思います。

3月11日の「東日本大震災」は、大地震、津波、原子力発電所事故と連鎖的に発生し、発生以降、国民の生活に影響を与え、日本経済にも大きな影響を与え続けています。これまでの備え以上に想定外の事案でした。「想定外」という言葉も頻繁に聞かれるようになりました。日本の歴史に残る大きな事案の一つであるとも思われます。
さらに、日本経済に影響を与えたのは7月に発生し予想外の影響を与えたタイの洪水です。日本企業は製造業を中心に経済的に有利なオフショアに生産拠点を設け、製造・開発を行ってきました。この洪水により、オフショアの生産拠点がダメージを受け、製品やサービスに全世界規模で影響がでました。日本企業においては、大震災時も同様の影響が国内外に起きていたが、連続して発生したことにより、問題は深刻化していったと思われます。9月11日には、2001年「アメリカ同時多発テロ事件」から10年を迎えました。この前後でも憶測が飛び交い、テロの恐怖をあらためて身近に感じた日でもありました。

セキュリティ関連でも主要な事案をとりあげていきたいと思います。まずは、震災直後から震災情報を偽ったメールやウィルス付メール等が数多く発生しており、震災復旧等を行っている企業や国民に影響を与えていました。4月下旬には、ゲーム関連メーカのサイトから個人情報が流出したという事案が発生しました。この後、関連会社のサイトが連続して攻撃に遭いました。個人情報漏えい事故としては大規模であり、さらに、世界規模での漏えい事故となったことは、これまで経験したことのないほどのレベルでした。この事故を受け、日本企業の各社は、検査や対策を率先して行うようになってきました。さらに、9月には防衛産業メーカーがウィルス感染し、機密情報等が漏えいした可能性があることが発覚し、連続して、10月には衆参議院のサーバやパソコンがウィルスに感染し、情報が流出した疑いがあることが発覚しました。これらの事故は、大手新聞等では第一面記事に「サイバー攻撃」という言葉がごく普通に使われ報道がなされました。

代表的な事案をとりあげても今年一年は、激動の年であったと思われます。
特に、セキュリティ関連では「サイバー攻撃」とか、「標的型攻撃」が取り上げられ、政府関連、自治体や企業等が問題解決に向けてさまざまな面で取り組んでいるのが実際だと思われます。

特に、標的型攻撃の対策として取り上げられたのは「入口対策」と「出口対策」です。簡単な例で二つの対策を表すと、ビルの入館を思い浮かべると分かり易いと思います。

ビルの入館時には受付で来訪確認を受け、来客カード(最近だとICカードなどが使われている)を渡され、持ち物チェックを受け、訪問先の担当者が迎えに来て、ゲートフラッパーゲート設置などもよく見られるようになった)を通過し、やっとビルの中に入ることができます。

このようにビルに入館する際には、多層構造で不正な侵入者が入り込まないように対策を施すことは、十二分に考えられ「入口対策」は比較的対応が進んでいるのかなと考えられています。一方、ビルに入館後、会議等が終了し、ビルの外に出る時には如何でしょうか?訪問先の担当者がエレベータホールまでは付き添い、来訪者はエレベータを使い、ゲートを通過して、来客カードを返却する、というような手続きになると思います。ここにはいろいろなリスクが存在するのではないでしょうか?何か持ち出されても、出口とは違うフロアに着床して降りるといったことも発生してしまい、対策がまったく機能しないことになります。

つまり、一旦侵入者が入ることが出来てしまえば、情報持ち出しなどの危険性が増加し、さらに、簡単に外に持ち出されることにつながる可能性があります。つまり、「出口対策」が大切であるというのは、この理屈になります。強調しておかなければならないのは、「入口対策」も効果的であり、再点検と必要に応じて追加対策を行うことも忘れないようにしておきたいところです。

東日本大震災以降の対応では、さまざまな支援を国内外から受け、助け合い進めていることは非常に感慨深いところでもあります。協力はさまざまなところで引き続き進めていきたいと思います。さらに、標的型攻撃に代表された「サイバー攻撃」の対策についても、政府や関連団体、企業等が対応を続けているところですが、これまで以上に壁を乗り越えて情報の共有や連携を密にし対応を進めることが大事だと認識しています。いまこそ力を合わせ、「太い絆」を持って対応することが重要で、我々もさまざまな活動を通じて貢献を続けることの必要性を痛感しました。

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