第211号コラム:伊藤 一泰 理事(株式会社インターセントラル 取締役副社長、
「法務・監査」分科会主査)
題:「「法務・監査」分科会主査に就任して」

今年度から「法務・監査」分科会の主査に就任した伊藤と申します。
分科会幹事の皆様、会員の皆様のご支援ご協力を賜り、更に充実した分科会となるよう努力いたしますので、宜しくお願い申し上げます。もとより浅学菲才で技術的なバックボーンがない素人でありますが、永年企業実務に携わってきた経験を活かし、デジタル・フォレンジックが企業活動に活用される機会を増やし、IDFの発展に寄与できるよう推進して参ります。

私がIDFに入会したのは2004年です。その当時は金融機関の情報システムに関する調査研究業務をしておりました。その頃は、金融機関のシステム担当者にも、デジタル・フォレンジックの言葉や概念が浸透していなかったので、デジタル・フォレンジックの定義から説明を求められたものです。それが、昨年の「デジタル・フォレンジック・コミュニティ」には、大手金融機関の担当者がパネリストとして登壇するまでに至っており、IDFの活動とこれまで果たしてきた役割を実感した次第です。

ご参考までに5月の総会で皆様にご承認いただきました「第9期の活動方針」を以下に記載します。

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1.活動方針(考え方)
不正行為に関わる「防止ツール」「事後対策ツール」としてのデジタル・フォレンジックは勿論のこと、不正行為を「抑制するためのツール」としてのデジタル・フォレンジックについて更なる普及・啓発を図る。「法務・監査」分科会として、企業や諸団体に活用されるようデジタル・フォレンジックの認知度向上を図る。

2.主務活動(具体的な活動計画)
(1)企業社会とデジタル・フォレンジックの関連を深堀する。
(a)証拠性確保の技術進展を認識しつつ、企業への応用拡大を図る具体策を検討する。
(b)国産の「フォレンジック産業」を育成・強化するための諸方策(含む政策提言)を
具体的に検討する。
(2)デジタル・フォレンジックに関わる法制度について検討・紹介を行う。
特に、民事訴訟における電子証拠の取扱いに関して、米国での証拠提出の手続きや真正性の
担保方法等を主な対象として、米国の実情に詳しい識者から紹介してもらうことにより、
日本における今後の展開と方向性を探る。
(3)e-Discoveryに関する最新判例・最新立法の紹介を行う。
(4)必要に応じて他の分科会や提携団体との研究会等も開催する。
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第1回の分科会は、民事訴訟における電子証拠の取扱いについて、訴訟実務に詳しい弁護士から実態を踏まえた講演をしていただくように準備を進めております。私の乏しい経験で恐縮ですが、日本の裁判実態は、通常、電子証拠も紙にプリントアウトして「書証」という形で取り扱われるため、残念ながらデジタル・フォレンジック技術の出番は殆どありません。この背景として、日本では、裁判所の権威が高く、当事者が提出する証拠についての真正性が維持されている面があると思われます。また、万一、偽の証拠を提出したことが発覚すると、自分の信頼性を失い、結果的に不利な展開になることが想定されるため、最初から真正な証拠を出すものと考えられます。しかしながら、今後、電子証拠のウエイトが増大する中で、真正性の確保が将来にわたって担保される保証はありません。毎年、民事・行政事件が2000件以上ありますが、将来、電子証拠の真正性が争点となる事案が増大すると考えると、裁判実務も大きく変貌せざるを得ません。当然、それに対応する制度整備や法曹関係者のスキル向上には、相当時間がかかりますので今から準備しておくべきでしょう。

このような問題意識から第1回の分科会を企画しております。詳細は近日中にお知らせいたしますが、皆様の積極的なご参加を期待しております。

【著作権は伊藤氏に属します】