第227号コラム:熊平 美香 監事(一般財団法人クマヒラセキュリティ財団 専務理事)
題:「ネットいじめとシチズンシップ教育」
今日の子どもたちにとって、Facebook、Twitter、mixiなどのソーシャルネットワークを通じてコミュニケーションを行うことが当たり前の世の中になってきています。多くの時間をネットワーク上で暮らし、より多くの人々と繋がり、より多くの機会を持てるようになりました。それに伴い、一人の発言が与える影響力が大きくなり、ネット上でいじめを受ける機会も増えています。ソーシャルネットワークでは、個人のアカウントに集団で残酷な発言をするなどのネットいじめが簡単に発生しやすくなっています。残念なことに、日本の学校教育では、利用上のマナーに関する倫理教育がなされていないのが現状です。
クマヒラセキュリティ財団では、現在、海外の民主主義や倫理の教育の研究を行っています。昨年4月に、オランダで学校視察を行った際に、画期的なシチズンシップ教育のプログラム「ピースフルスクール」に出会いました。このプログラムでは、小学校6年生を対象にネットいじめを取り上げてレッスンを行っていますので、その一部をご紹介したいと思います。
ピースフルスクールで学ぶ6年生は普通のいじめとネットいじめの違いを次のように学習します。
1 いじめ役と犠牲者によるロールプレイを行います。
【普通のいじめ】
校庭で、実際に相手と対面します。
-いじめ役は、「みんな、お前のことを嫌っているんだ。誰もお前のことが好きじゃないんだ。仲の良い友達ですらそういっているだぞ」と発言する。
-犠牲者は、相手が言い終わるのを待たずに、いじめ役の言ったことに反応する。
【ネットいじめ】
相手と対面せず、インターネット上でやりとりをします。いじめ役と犠牲者は、お互いに背中を向けて席に座ります。
-いじめ役は、犠牲者に次のような内容の悪口メールを書き、タイプした内容を口に出す。「みんなお前のことを嫌っているんだ。誰もお前のことが好きじゃないんだ。仲の良い友達ですらそういっているだぞ」
-犠牲者は、悪口メールを受け取ったところを演じ、思った事、感じた事を口に出す。
2 以上のロールプレイを行うことで、生徒は次のような違いを学びます。
-ネットいじめでは、いじめる側は、自分のいじめ行為が相手にどんな影響を及ぼすかを解っていない。
-匿名であることが普通のいじめと大きく違う点である。誰に、いじめられているのか解らないということは、とても恐ろしく誰も信じられなくなる。
-ネットいじめでは、いじめる側から逃げられないという事実がある。家に帰れば、外でのいじめからは逃れることができるが、ネットいじめは、寝室までつきまとわれる。家ですら安全ではなくなる。
-ネットいじめのメッセージは、ずっと長い間、インターネット上に残る。
-最も大きな違いは、傍観者がとても多いという事。誰でも傍観者になれる。
3 ネットいじめに対処する
前記のような理由から、生徒は「ネットいじめは普通のいじめよりもずっとひどい」ということを学びます。ネットいじめにあったら、以下のような方法で対処します。
【ステッププラン】
-ネットいじめは、無視する。
-無視できないなら、父親、母親、兄弟、友達、学校に相談し、助けてもらう。
-チャットルームでいじめられた場合には、責任者に報告し、相手を削除してもらう。
-脅迫されたら、警察に通報する。
傍観者は、
-いじめられた人を助ける。
-先生に言う。
-一緒になっていじめない。
ネットいじめにあったら、いつでも、誰かに相談する事が大切です。いじめについて耳にしたら、アクションを起こすことが大切です。当事者としても傍観者としてもステッププランに従い、行動しましょう。
オランダでは、シチズンシップ教育の中で、言論の自由を持つ国に生きる幸せとともに、言論の自由にも境界線があるということを、小学生の時から教わります。コミュニケーションにおいて、言論の自由の境界線がどこにあるのかを学び、その上で、さらに、ネット上のコミュニケーションにおける言論の自由の境界線を学んでいます。私たち大人も、子ども同様に、ネット上のコミュニケーションにおける正しいマナーを学ぶ必要が有るように思います。
【著作権は熊平氏に属します】