第241号コラム:佐々木 良一 会長(東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科 教授)
題:「新しい年を迎えて」

皆様、2013年あけましておめでとうございます。
ご存知のようにデジタル・フォレンジックもいよいよ実用段階に入り、いろいろな局面で利用されています。個人情報の漏えいなどに関連して漏洩事実や漏洩経路を明確化するために民間でも専門業者に依頼してデジタル・フォレンジックを適用する機会が増えてきているように思います。また、デジタル・フォレンジックの一分野であるネットワーク・フォレンジックも新しい攻撃に対する対策として注目を浴びています。政府においても、ログ管理・証跡管理に関連する統一基準を設定すべく、内閣官房の情報セキュリティセンターと本研究会が協力して検討を行い、昨年7月に「平成23年度 政府機関における情報システムのログ取得・管理の在り方の検討に係る調査報告書」としてまとめあげました( http://www.nisc.go.jp/inquiry/pdf/log_shutoku.pdf )。また、警察の捜査においてもデジタル・フォレンジック技術の利用が広く行われ、違法な書き込みなどに対応し、被疑者を逮捕するにあたっても、マルウエアの影響がなかったかデジタル・フォレンジックを用いて十分チェックしてからでないと大きな問題になる時代になってきています。

そのため、デジタル・フォレンジック研究会への期待も大きく高まっていると考えられます。当然のことながら研究会活動はまず社会の役に立つものでなければなりません。また、同時に、研究会メンバーに役立つものでなければなりません。そのためにはより良い情報を内部に発信し深めていくとともに、その結果を外部の多くの人たちに発信をしていくことが不可欠であると思います。幸い昨年12月に実施されたデジタル・フォレンジック・コミュニティ2012への参加者は336人となり過去最高を更新しました。また、デジタル・フォレンジックの専門家でない情報セキュリティ技術者に対し、昨年9月に「デジタル・フォレンジック製品&トレーニング概要説明会」を実施したところ多くの方々に参加いただきました。さらに昨年、「技術」分科会ワーキンググループの活動により、その改訂版である「証拠保全ガイドライン(第2版)」を出すことができ、( https://digitalforensic.jp/eximgs/20120713gijutsu.pdf )現在第3版の発行を目指し活動中です。今年もこれらの情報発信を続けていただきたいと思っています。

問題は、現状では日本のデジタル・フォレンジック技術の研究が米国などに比べ遅れ気味な点です。研究者の数は少しずつ増えては来ていますが、十分ではありません。また、それらの研究がビジネスと結び付いたというのも少ないように思います。このようなことを可能とするためには、実力の向上を図ることが必要であり、海外の技術者との連携も大切になってくると思います。昨年は中国の研究者を東京電機大学に招き、共同研究を実施しました。本年は、7月22-26日に京都で実施される情報処理に関する最大規模の国際会議の1つであるCOMPSAC2013(The 37th Annual International Computer Software & Applications Conference)の中でワークショップCFSE 2013:(The 5th IEEE International Workshop on Computer Forensics in Software Engineering)を開催していく予定であり、国内外の多くの参加者を期待しています。

さて、本年8月より本研究会は10周年目に入ります。10周年記念として次のような活動を企画中です。
(1)「デジタル・フォレンジック事典改訂版」の出版
(2)10周年記念式典の実施
(3)功労者表彰の実施
これらの活動を通じて、本研究会がさらに活性化し、社会や会員に不可欠なものになって行けば良いと思っています。皆様のご協力を期待しています。

最後に、2013年が会員の皆様にとって良い年であることを祈念していることを述べて年頭の挨拶に代えさせていただきます。

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