第256号コラム:舟橋 信 理事(株式会社UBIC 取締役)
題:「デジタル・フォレンジックの発展に向けて」
早いもので、本年8月23日にはデジタル・フォレンジック研究会が発足して10年目を迎えます。この間、「デジタル・フォレンジック事典」の発行、「証拠保全ガイドライン」の公開、「技術」、「法務・監査」、「医療」の各分科会の開催など、研究会の活動を推進して参りました。また、研究会を設立した年、2004年12月には、デジタル・フォレンジックの普及・啓発を目的として「第1回デジタル・フォレンジック・コミュニティ2004 in TOKYO」を開催致しました。お陰さまで本年12月の開催で10回を重ねることとなります。コミュニティは回を重ねるごとに活性化して来ております。これも会員の皆さまから頂いております御支援の賜物と、感謝致しております。
この10年間、デジタル・フォレンジックは、少しは世の中に認知されるようになって参りました。また、ライブドア事件の際の偽造メール問題やサーバーの捜索、相撲八百長事件の際の携帯電話のメール、最近のPC遠隔操作に関わる事件のIPアドレス捜査など、マスメディアの関心も高まってきているように見えます。しかし、一部上場企業の役員の方々でも、e-Discoveryが、国境を越えて自社に係わってくることを想定されていない、あるいは、e-Discoveryに関することを全く御存じないのが実情ではないかと思われます。このような意味で、デジタル・フォレンジックの普及・啓発活動を継続する意義があり、経営層の方々にもコミュニティや研究会に参加して頂くことが必要かと思います。
我国におけるデジタル・フォレンジックの発展に向けて、大事なことを一つ挙げれば、デジタル・フォレンジックに係わる人材の層の薄いことが気に懸かるところです。その原因の一つは、米国と異なり大学の工学系学部や大学院において、この分野の教育や研究がほとんど行われていないことではないかと思います。また、官庁では人事異動の周期が短く、専門性が育たない懸念があります。一部ベンダー企業が行っておりますが、デジタル・フォレンジックに係わる要員の技術認定も、人材を育てる一つの要素になります。かつて訪問した米国の法執行機関では、要員に対して“The International Association of Computer Investigative Specialists ”の“Certified Forensic Computer Examiner”の認定を取らせていたのが印象に残っております。
現在、10周年記念に合わせて、各種行事等を計画しておりますが、そのなかの一つとして、2006年12月発行の「デジタル・フォレンジック事典」の全面改訂を進めております。
改訂版では、基礎編と応用編に分けて、入門書としてもお読みいただけるような構成にしております。また、初版発行以後の関連法令の改正、あるいは、サイバー攻撃に対応したネットワーク・フォレンジックの充実など、最新の知見を盛り込んだものを今年度末を目途に改訂作業を進めておりますので、ご期待ください。
【著作権は舟橋氏に属します】