第299号コラム:山田 晃 理事(株式会社サイバーディフェンス)
題:「INTERPOLが設立するデジタル・フォレンジック・ラボ」
INTERPOL(国際刑事警察機構)は、「異なる各国法制度の範囲内で、全刑事警察間における最大限の相互協力の確保と推進、及び、一般法犯罪の予防・鎮圧に効果があると考えられるあらゆる制度の確立・開発を図る(INTERPOL憲章第2条)」ことを目的として、世界各国の警察機関により構成される国際機関であり、フランス中東部の都市、リヨンに本部を置き、現在は190カ国が加盟しています。INTERPOLの活動は、「安全な世界構築のために各国警察機関を結び付ける」ことを目標に、犯罪情報の収集・交換、複数国にまたがる犯罪捜査促進のためのオペレーションの実施、各種会議・プロジェクトの開催、逃亡犯罪人の発見等のための国際手配書の発行等、広範囲にわたっています。
INTERPOLは、今年秋に、「INTERPOL Global Complex for Innovation(IGCI:シンガポール総局)」をシンガポールに設立・開設します。この中には、各加盟国のサイバー犯罪捜査部門と密な連携を図りながら彼らの活動を支援する「INTERPOL Digital Crime Centre(IDCC:デジタル・クライム・センター)」が設置されます。IDCCでは、国際レベルのサイバー犯罪と効率よく対峙するために必要なスキルやツールを、各加盟国のサイバー犯罪捜査部門に提供するなどの支援を行う予定です。
その中でも、特に注目されているのがDigital Forensic Lab(DFL:デジタル・フォレンジック・ラボ)です。IDCC内に設置されるDFLは、世界中の警察機関におけるフォレンジック技術の中核拠点として、各加盟国のサイバー犯罪捜査に携わる捜査官に対するサポートや、各国・地域間の捜査活動の調整を行います。
具体的なサポート内容には、サイバーセキュリティに関する脅威情報(インテリジェンス)や犯罪傾向に関する情報の収集・調査・分析、デジタル・フォレンジックツール(商用/非商用)の検証・採用・提供(各加盟国のサイバー犯罪捜査部門向け)、サイバー犯罪に対する新たな捜査手法の開発・普及、フォレンジック技法を含む各種トレーニングの提供、最先端サイバーセキュリティ対策・ベストプラクティスの開発・策定等が含まれています。
DFLは、先進国の警察機関から派遣される職員が中心となり、DFL内外における民間企業等のサポートを得ながら運用されます。日本からは、日本電気株式会社(NEC)、株式会社サイバーディフェンス研究所(CDI)、株式会社ラック(LAC)、株式会社フォティーンフォティ技術研究所(FFRI)等の企業が協力体制を構築しており、この他にも、トレンドマイクロ株式会社(TM)、マイクロソフト株式会社(MS)、Kaspersky(ロシア)等の企業が、製品やソリューションの提供、トレーニングの実施、エキスパート要員の派遣、各加盟国が行う捜査の支援等を行い、DFLの活動をサポートする予定です。
また、DFLでは、その名が示す通り、デジタル・フォレンジック分野において、各加盟国のサイバー犯罪捜査部門をサポートするために、押収品に対するデジタル・フォレンジック調査・解析作業、マルウェア検体の解析作業、これら調査・解析手法に関するトレーニング等を各加盟国の捜査官向けに実施する予定です。
IGCIの初代総局長には、日本の警察庁職員が就任する予定です。世界各国の警察におけるサイバー犯罪捜査能力は年々急成長していますが、高水準を維持しながら、途上国のレベルを引き上げることがIGCIに与えられた課題です。特に、途上国においては、サイバー犯罪を捜査する専門のユニットがない国もたくさんあり、その組織作りも含めたサポートが提供されていく予定です。
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