第355号コラム:舟橋 信 理事(株式会社UBIC 取締役)
題:「テロ・グループとインターネット」

テロ・グループや過激派などの犯罪者集団は、昔からその目的達成のため、予算に制約される法執行機関側が後手を踏むこともあるほど最新の通信手段を用いて来た。携帯電話、衛星通信、パソコン通信及びインターネットなどである。

その行為から前近代的と思われるようなal-Qaeda(アルカイダ)やISIS(イラク・シリア・イスラム国)などの国際テロ・グループも、インターネットを使いこなしていることで知られている。また、それぞれのグループは、「INSPIRE」や「DABIQ」など、商業ベースの雑誌の体裁をとったオンライン・マガジンを発行しており、同調者の獲得に向けた試みを行っていることが窺える。欧州警察機構のテロに関する年次報告、例えば2011年版や2012年版をみると、その状況が掲載されている。

テロ・グループにとってインターネットは極めて重要な活動手段である。プロパガンダ、士気の高揚、リクルートの手段として確固とした位置を占めている。また、ソーシャルメディアを用いて彼らの主張を広げ、コミュニケーションを迅速に行って情報共有を行うとともに、要員のリクルートにおいても有力なコミュニケーション手段として用いられている。インターネット上にアップする映像を用いて、イデオロギーを流布させ、構成員が国境を越えなくとも信奉者へ情報を迅速に伝えることができる。

一方で、少し古いが米国Massachusetts Lowell大学のJialun Qin氏他が、興味深い論文を発表しているのでご紹介する。

中東のテロ・グループが開設している86のWebサイトから20万本のドキュメントを収集し、分析を行っている。

その結果は、米国政府機関が開設しているサイトのドキュメントと比較して、同等の技術水準や、知識を保有していること。マルチメディア利用を強力に推進しており、米国政府機関よりも進んだWeb技術を導入していることなどが報告されている。

グループや個人とのコミュニケーション及び相互交流の手段としてWeb技術を効果的に活用している。チャットなどのコミュニケーションツールについても米国政府機関よりもよく利用しているという評価である。

テロ・グループは、インターネットをプロパガンダ、リクルートとトレーニング、資金調達、コミュニケーション及び攻撃対象指示などの手段として効果的に利用していると言える。

テロ・グループのインターネット利用に対して、法執行機関側も安閑としてはいられない。現在、欧米各国を悩ませている母国生まれのテロリスト、すなわちホームグロウン・テロリストが国内で生まれてこないとも言えない。かっては、過激派、オウム真理教などに参加したような若者が、容易に影響を受けることも考えられる。

「割れ窓理論」的に言えば、国際協力によりサイトを常時監視して閉鎖に追い込み、芽のうちに摘み取っておくなどの対策を実行する必要がある。

【著作権は、舟橋氏に属します】