第356号コラム:佐々木 良一 会長(東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科 教授)
題:「人材育成」
最近、大学に対する人材育成の期待がますます高まっている。
中には、卒業生に対し即戦力を求める動きがあり、大学の中にも学生の研究を軽視する動きがある。しかし、私は、これは明らかに間違っていると思う。もちろんプログラミング力や計算機アーキテクチャー、ネットワークなどの知識など基礎的な力をつけることは不可欠である。しかし、研究の時間を減らして、多くの知識を与えようとする必要は無いと思う。卒業研究や修士での研究をきちんとやっておけば、実に多様な力がつく。いろいろなことを調べる力がついておけば、新しい分野の知識を調べることなどは簡単だからである。
私自身、企業にいたとき、新しい分野であっても、比較的自分の専門に近い部分なら、大学の1単位程度の勉強は、2日もあればできた。少し遠い部分は、定時後に仲間と勉強会をやって身につけた。なんとかなるものである。
「即戦力」という言葉は、本当は、立ち上がりの早さと伸びしろの大きさに対する期待の声ではないかと思う。企業の人と話しても、きちんとした人はこの考えに賛成してくれる。立ち上がりの早さと、伸びしろの大きさに必要なものは、いずれも基礎力とモチベーションの高さではないだろうか。基礎力には、プログラミング力や計算機アーキテクチャー、ネットワークなどの知識などもあるが、目的を持って調べられること、課題を適切に設定できること、考え抜くこと、相手にきちんと自分の思いや、やったことを伝えられることなど卒業研究で得られるものも含まれる。
次にモチベーションである。いろいろな形でモチベーションは高まるのだろうが、私は飢餓感や自負心も大切ではないかと思う。昔、システム研究者のために「研究の勘所」というのをまとめたことがある。http://togetter.com/li/49169そして、最後を次の言葉で終えた。
「もっと飢餓感をもて。もっと自負心をもて。最後の粘りはこれらのコンプレックスがささえてくれる。」
自分がどこまでできているかどうかは別にしてこの大切さの認識は今も変わっていない。
新しい知識をつけるのはそんなに難しいことではないと書いた。その通りなのだが、重要な技術は時代とともに変わり、自分の専門に遠い部分を理解するにはやはり時間がかかり立ち上がりが早いとはいえない。社会人が学びなおしをできるようにすることも大切だと思う。そのような中で、文科省は「高度人材養成のための社会人学びなおし大学院プログラム」を企画した。それに応募した東京電機大学の「国際化サイバーセキュリティ学特別コース」が採用され、デジタル・フォレンジックは次の6つの科目の1つとして実施されることになっている。
1 サイバーセキュリティ基盤
2 サイバーディフェンス実践演習
3 セキュリティインテリジェンスと心理・倫理・法
4 デジタル・フォレンジック
5 情報セキュリティとガバナンス
6 セキュアシステム設計・開発
デジタル・フォレンジックについては、デジタル・フォレンジック研究会のメンバーの協力も得て2015年度は後期金曜日18:10-19:40に実施の予定である。受講者は社会人20人、大学院生20人を想定していたが、社会人は30人を超えた。デジタル・フォレンジックを含めサイバーセキュリティに対する社会人教育のニーズの大きさを感じさせる。社会が求める人材の育成に関係者の協力を得て、何とか貢献していきたいと考えている。
【著作権は、佐々木氏に属します】