第361号コラム:伊藤 一泰 理事 (栗林運輸株式会社 監査役)
題:「マイナンバー制度と企業の対応」

マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)は、2013年5月に制定された「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」に基づき、2016年1月から利用が開始される新たな制度である。
この番号(特定個人番号)は、社会保障、税及び災害対策の行政分野において、個人情報を複数の行政機関の間で紐付けるものである。住民票を有する全ての者に一人一番号(12ケタ)で重複のないように、住民票コードを変換して付与される番号である。最近、啓発ポスターやテレビCMなどで政府が広報活動に力を入れているものの、現時点では、国民個々人や一般企業における認識はまだ十分といえない状況にある。

筆者の個人的感想で恐縮だが、まず、ネーミングが気に入らない。
オブラートに包んだ優しい響きのネーミングについては、(この制度に限らないが)常に胡散臭さが漂っていて、要注意だからである。また、ポスターには、イメージキャラクターとして「マイナちゃん」というウサギが登場している。マイナンバーというネーミングやウサギの「ゆるキャラ」では、事の重大性や緊迫感が伝わってこない。なぜ、単純に「個人番号」とか、「個人番号登録制度」にしなかったのか疑問である。反発を避けるために決めたとしか思えない「ゆるいネーミング」である。

政府の啓発ポスターには、3つのメリットとして以下の点が掲げられている。

1.国民の利便性の向上:  面倒な手続が簡単に
2.行政の効率化:      手続が正確で早くなる
3.公平・公正な社会の実現:給付金などの不正受給の防止

なるほど、謳い文句には、「誰にも反対されたくない」という気合十分なフレーズが並んでいる。

ともあれ、まだ先のことと思っていた制度のスタートは、もう近々のことである。今年の10月には国民一人一人に番号通知が行われる。
そして、2016年1月から、行政手続においてマイナンバー(個人番号)の利用が開始される。この制度の開始に合わせて対応するには、一般の企業・団体にも準備が必要とされる。すなわち、企業等は2015年末までに関連するシステムの整備(改修・更新)を完了させ、遺漏なきようマイナンバー(個人番号)をチェックできる体制を構築する
ことが必要だ。当然ながら情報漏えい等の問題を防ぐためのセキュリティ強化も必要である。こうした状況のもと、マイナンバー制度に関する周知・啓発活動が本格化したわけだが、2015年末まで残り8カ月となった。しかしながら、周知・啓発活動が本格化したのは最近のことであり、まさに「待ったなし」の段階に来た。残りの期間で、企業等の取り組みが行政にキャッチアップできるのか甚だ疑問である。

制度スタートまで残された時間は少ない。今年の秋には「マイナンバー通知カード」が全国民に郵送で送られてくるのである。
市区町村から、原則として住民票に登録されている住所あてに郵送される。
個人番号カードは、各種手続きにおけるマイナンバー(個人番号)の確認及び本人確認の手段として用いられることになるので厳重な管理が求められる。
すなわち、これまで、本人確認のために用いられてきた自動車運転免許証やパスポート等に代替し、銀行の窓口での本人確認に広く利用されることが想定される。問題は、一般企業についても、金融機関並みの安全管理措置が要求される点である。このため、意識の高い企業においては、早々に人事管理系システムの見直しを行っているところである。しかしながら、多くの中堅中小企業では、まだ、担当者がセミナー等で情報収集している段階のところが多いように思う。システムの見直しにかかる予算確保もこれからであろう。

最近、日経BP社などが、企業・団体について、この制度への対応状況の実態を調査しているが、その結果は愕然とするものであった。
新聞報道によれば、今年3月現在で既に社内システムの改修やパッケージソフトの更新などを実施し制度への対応を完了させている企業・団体は17%に止まっているという結果であった。何と8割以上が未対応であり、2015年末までに対応する予定すらない企業・団体が8%もある。【日本経済新聞2015.4.20朝刊】

マイナンバー制度については、プロが理解していれば事足りる問題ではない。先に述べたように一般企業にも対応が義務付けられている。
このようにマイナンバー制度の利用開始が迫る中、一般企業では、「何となく近々に対応が必要らしい」程度の認識で理解が浸透していないのが実情だ。
浸透が進まない原因として考えられるのは、マイナンバー制度が、企業側のインセンティブに乏しいという点である。企業として、システム改修等に巨費を投じる意義が見出せない状況にある。このままでは、2015年末になっても制度への対応が出来ていない企業・団体が続出する恐れがある。急がなければならない。

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