第419号コラム:IDF運営支援要員 榮多 綾香 様
(株式会社FRONTEO リスクコンサルティング部)
題:「人工知能による『お客様の声』活用事例」
まず、初めに7月1日付で株式会社UBICは、社名を株式会社FRONTEO(フロンテオ)に変更いたします。長年皆さんに親しんでいただいたUBICという社名を改めるのは一抹のさびしさがありますが、FRONTEOとして、本研究会の取組みにもより一層、力を入れて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
さて、今回はこれまでに当社が対応してきましたデジタル・フォレンジックによる不正調査やeディスカバリ支援のお話とは異なり、それらのサービスを通して培った当社の人工知能技術を少し毛色の異なる分野で活用するお話をさせていただきたいと思います。
コールセンターに寄せられる「お客様の声」やECサイトでのレビューのコメントは、ずいぶん昔から「宝の山」と呼ばれてきました。多くの企業がその収集と分析に取り組み、そして、お客様も積極的に良い点・悪い点の声を伝えています。ところが、企業はその沢山の声を十分に生かすことができていないのが現状です。それはなぜでしょうか?
ワインショップの全国チェーン店に寄せられた下記のコメントを例として、紹介してみましょう。
「△△店のワインのスペシャルフェアの品揃えがなかなかの良いセレクトになっていた。しかし、レジが混雑しすぎていて、うんざり。至急の改善を望む。★★☆☆☆(2点)」
もし、このワインショップのチェーン店が、点数による判断やクレーム処理の目的でこのコメントを仕分けした場合、後半のオペレーションの不備による低評価のみが記録されることになり、ワインショップにとって最も重要なはずの、品揃えや銘柄のチョイスに対する前半の評価は記録されないことになります。
コメントが1日数件~数十件しか無ければ、ベテランのお客様担当スタッフがこのコメントを必要な部署に適切に振り分けることができますが、もし、何百、何千のコメントが寄せられた場合、1件1件の価値をベテランスタッフと同じ尺度で見極めることはきわめて困難です。その結果、お客様から寄せられたデータ活用の網羅性が低くなってしまい、沢山の情報の中に、貴重な意見が埋もれてしまうことになります。
従来「お客様の声」を拾う際に用いられてきた「キーワード検索」や「テキストマイニング」は、決まった言葉をピンポイントで見つけたり、また、コメントの中で頻繁に出現する単語の量や組み合わせの傾向を捉えたりすることができます。しかし、「本当に欲しいコメント」を抽出できるとは必ずしも言えないのが現状です。
このような場合にこそ、人工知能を活用することができます。あらかじめマーケティングや購買、店舗管理など各部署のエキスパートが見つけ出したい文章例を、人工知能に学習させておけば、エキスパートと同じ視点で見つけたい「お客様の声」を抽出することができます。例えば、ワインの味への反応を探したいといった時には「美味しい」というキーワードを探すのではなく、「このワインはふくよかな果実味とバラのアロマが引き立っていました」といった言葉こそ見つけたいのですが、このような文章を人工知能に学習させると「美味しい」以外で表現された味への評価を見つけ出すことができます。
実際に当社が開発した人工知能エンジン「KIBIT(キビット)」を利用しているアパレルメーカーの場合、ECサイトのユーザーコメントを「色柄」「フィット感」「他社比較」「改善要望」のカテゴリーに仕分けするために、エキスパートの知見をKIBITに学習させ、コメントの解析を行った結果、各部署が知りたい情報を88%から100%の精度でピックアップすることができました。(点数付けされた上位50件での割合)
数字や単一の言葉では捉えきれないお客様の意向を抽出し、チャンスにつなげる、これこそがコールセンターなどに寄せられた「お客様の声」を本当に「宝の山」にする取組みと言えます。
このように、フォレンジックに活かしてきたエキスパートの暗黙知は、他の分野でも活かすことができます。ここで得られる効果は、単に情報の抽出の効率性を高めるだけではありません。コールセンターやECサイトに寄せられた膨大な情報を、エキスパートの知見で、まとめて解析し、欲しい情報を得られることが大きなポイントです。これまで言葉では伝えにくかったエキスパートの“暗黙知”を人工知能が学び、活かすことで、企業の利益に繋がると言えます。
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