第472号コラム:宮坂 肇 理事
(株式会社NTTデータ・アイ  SDコンピテンシー推進部 シニア・スペシャリスト)
題:「続:子供のセキュリティを考える」

2年ほど前のこの時期に「子供のセキュリティを考える」をテーマに本コラムを寄稿した。その2年間にインターネットサービスの発展やセキュリティの動向、事故、事案などの増加とともに、子供のインターネット利用も変わりつつあり、再び「子供のセキュリティを考える」というテーマを取り上げたい。

最近、子供と会話をしていると、子供からセキュリティに関連するキーワードを聞くようになってきた。ここ半年では、「ランサムウェア」、「SNSの問題」、「標的型攻撃」、「サイバー攻撃」などが並ぶ。また、半年ほど前に、子供の写真を撮る際に、ピースサインを避けるようになった。なぜ、ピースサインをしなくなったのかの理由を尋ねると、ピースサインは、写真から指紋を盗られ悪用されるから、写真を撮る際にはピースサインは絶対にしない、と言われた。どこでそんな事を知ったのか尋ねたところ、ニュース報道やインターネット、SNS等で知った、学校で先生からも聞いた、と言われた。子供の世界でも、このような情報はとても素早く伝達され、友達間でも情報交換される状況になったことに驚かされた。

本コラムが掲載される2か月ほど前の5月中旬ごろに世界中で発生した、いわゆる「WannaCry」の騒ぎの直後頃に中学生がランサムウェアを作成し不正指令電磁的記録作成・保管の疑いの容疑で逮捕された。14歳の中学生であり、未成年者がこのような容疑で逮捕されたことには驚かされたが、未成年者がこのようなことができることに改めて近年の子供のセキュリティについて考えさせられる機会ともなった。

最近はあまり耳にしたり、使わなくなったが「Script Kiddies」という言葉がある。1990年頃からインターネットの普及とともにコンピュータシステムに侵入する、攻撃するなどして何らかのダメージを与えることが増加し、攻撃も高度化、多様化してきた。「Script Kiddies」の意味するところは、いくつかあるようであるが、一つは“若年層がインターネット上にあるクラッキングツールなどを入手し、興味本位でコンピュータシステム等を攻撃するもの指す”であるという。インターネットの普及とともに米国では若年層が起こした事件により多くの逮捕者が出ているとも聞いている。

一般家庭でもスマートフォン、タブレットなどが普通に使われ、インターネットを日々の生活のなかで様々な場面で活用している。小・中学校の授業等でパソコンなどのICTを活用した教育も既に行われている。文部科学省では授業のICT化の推進を図り、2020年から小学生に対してプログラミング教育導入を計画している。2012年頃の中学校の「技術・家庭」科においてプログラムが必修科目となっているようである。

若年層でもパソコンを気軽に使えるようになり、普段の生活の中に入り込んでおり、さらにプログラミングをはじめとしてICTの知識も豊富になるなか、若年層が興味本位でいろいろなことができる環境が身近に整っている。このような環境のなか、上述のような事案が発生しないようにしなければならない。一方、いろいろな制限をかけることにより多感な時期である若年層には反発するものもいれば、優れた才能の芽を刈り取ってしまうことにもなりかねない。将来の日本を支える若年層を正しく導くために、パソコンやインターネット等を正しく使うことを指導することは日常的に行わないといけないと考える。

一方、学校教育ではプログラミングをはじめとしてITに関する教育は盛んに行われており、一部の学校や自治体等では、小・中学生に対してのスマートフォンをはじめインターネットの危険性や使い方などを教える取り組みが数年ほど前から続いている。さらに、小・中学生を持つ保護者向けのセキュリティセミナーなども開催されているところも増えてきた。これらの取り組みは、インターネット社会の悪意あるものから若年層を守るためのものでもある。

日本の将来を担う若年層のITの教育、特に、セキュリティに関する教育については、学校教育の場ももちろんのこと、親としても取り組む必要があるが、サービスを提供している業界、インフラを提供する業界、国自治体等をあげて取り組む必要があることをこの数か月で痛切に感じた。

交通事故防止のために保育園や幼稚園の幼児期から毎年交通安全教室が開かれているのと同じように、インターネットやICTを“安全”に使えるような教室が幼児期から継続的に行われるような環境が必要である。また、子が被害者にならないようにするともに、加害者にならないようにすることは、社会全体の責任として取り組む必要があるとあらためて思う今日この頃である。

ところで、筆者は、3月末まで2年間ほど介護関係の業務についており、全国の介護事業所や、関連団体等のビジネス状況等のお話しを聞かせていただく中で、セキュリティの現状の色々なお話をお聞きしてきた。高齢者社会を迎え、介護業界は今後ますます必要性が増してくることは必至となっている。介護業界でもICT化が進んでおり、個人情報保護対策や日々の業務で使用するICTに関するセキュリティ対策などへの関心が高まっている。しかしながら、介護事業所では運営資金などが厳しい状況下におかれており、費用や人員確保などの大きな課題があり、ICT化への投資やそのセキュリティ対策なども課題となっている。機会があれば、介護業界等におけるICT化の現状とセキュリティついても取り上げたいと考えている。

【著作権は、宮坂氏に属します】