第508号コラム:佐々木 良一 理事・顧問(東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科 教授)
題:「いこうか・もどろうか70年」

古希を過ぎ、この2月24日に最終講義を行いました。その際、最終講義のための冊子に次のようなあいさつ文を載せました。

「私が日立製作所を退社し、東京電機大学にお世話になったのが2001年4月のことですから、大学生活も17年がたとうとしています。そして昨年8月に古希を迎え定年の時期が迫ってきました。早いものです。

最初に大学に来たときは、所属の研究室の卒業研究生もおらず、自分の部屋のレイアウトを変えるのに一人で机の移動をどうしてやろうかと思った時期もありましたが、今では博士課程の学生が2人、修士課程の学生が19人、学部4年生が11人と増え、東京電機大学で学生の数が最も多い研究室の1つになっています。

途中からの先生業ですから、教育者としては一流になれそうにはないので、先輩技術者として技術を学ぶことの楽しさ、研究することの素晴らしさを経験によって伝えていきたいと思っていました。このため、自分も率先して研究を実施するとともに、毎週土曜日に学生を集めじっくり研究指導を行ってきました。この結果、約90件の論文が学会誌に採用されるとともに海外からを含めいろいろな賞を受賞することができました。一部は、企業に移管され製品となった研究成果も出てきました。

良い研究をするためには、良い情報を得ることが不可欠だと考えており、良い情報はよい情報を発信しなければ入ってこないと思っています。このため、頼まれたことは自分の専門が生かせるなら基本的に引き受けることとし、講演や学会活動、各省庁の委員会の委員、企業との共同研究などを積極的に実施してきました。これらの活動を通じて、世の中がどのように移っていくのかや、そこに向けて必要な研究課題が明確になってきたように思っています。このような活動から、デジタル・フォレンジックの研究を日本で最も早く着手したり、外国のものまねでないITリスク学の研究の立ち上げができたと思っています。

定年を迎え、怠け者の私としてはよくやったかという思いとともに、大したことはできていないなという忸怩たる思いがあります。まさに少年老い易く学成り難しです。もう少しだけ、情報セキュリティの教育と研究に従事したいと考えています。引き続きご指導ご鞭撻いただければ幸いです。」

定年を前にして、このままリタイア生活をしようか、それとももう少し、研究や教育を続けようかいろいろ迷いました。70歳を迎えまさに「いこうか・もどろうか70年」です。と書いてもこのフレイズを知っている人も少なくなっているかもしれません。1970年を前にテレビなどで盛んに流されたCMソングでそのあと「70年は社会党」と続きます。70年安保を前に決断を迫る歌ですが、もう50年も前の古い話になりました。

さて、周りの人の迷惑にならないかと思ったり、体力がはたして持つかなどとも思いました。一方、まともな趣味とてもない身として「小人閑居して不全をなす」という言葉がまさに当てはまりそうなので暇にしないほうが良いだろうとも思いました。確かに、忙しいの「忙」という字は心をなくすと書くといいますが、自分の場合は暇になるとほこりをなくしそうだなとも思いました。そして、何をしている時が一番楽しいなと聞かれるとやはり研究だなとも思いました。そんなこんなを考え、70歳は恥ずかしながらもう少し仕事を続けさせていただくことにしました。

そして東京電機大学の安田 浩 学長のおすすめもあって4月からは東京電機大学 研究推進社会連携センター 特別専任教授(特命教授)兼 サイバーセキュリティ研究所所長としてもう少し、デジタル・フォレンジックを含めたセキュリティに関する研究と教育に携わっていくことになりました。ありがたいことです。

いずれにしても体力の限界などでいずれリタイアする時が来るのですが、もうしばらく引き続きよろしくお付き合いいただければ幸いです。

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