第609号コラム:安冨 潔 会長(京都産業大学 法学部 客員教授、慶應義塾大学 名誉教授、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 顧問)
題:「情報通信技術の発展とわが国の法整備」

第二次世界大戦後、コンピュータと情報通信技術はめざましい進展をとげた。
わが国では、1950年代から1960年代にかけて、様々な分野で商用コンピュータの導入が始まり、1960年代には、オンライン・システムも稼働するようになり 、一般企業においても活発にコンピュータが利用され、高度経済成長期のわが国の経済を大きく発展させることとなった。

1970年代に入るとオイルショックを契機として高度経済成長期から安定成長期に移行したが、一般企業においてコンピュータが普及し、オフィス・オートメーションの導入が急速に進み、情報システムの信頼性確保が重要となってきた。

1980年代になるとパーソナルコンピュータが企業を中心として広く使用されるようになるとともに、本格的にインターネットが普及し始めた 。

1990年、WWWWorld Wide Web)サーバとブラウザを開発・実装がなされ、1993年には画像を扱えるMosaicブラウザが開発・公開されたことにより、WWWの普及は急速に進むこととなった。わが国でも、1993年には郵政省(現:総務省)がインターネットの商用利用を許可したことで、同年、日本初のインターネットサービスプロバイダ(Internet Service Provider: ISP)がサービスを開始した。1994年のNetscapeブラウザの公開、1995年のWindows 95の発売などを契機として、日本でも一般利用者に急速にインターネットが普及していった 。

2000年代になると、インターネットを利用した情報処理サービスが数多く商用実用化され、またSNSの普及が本格的に始まり、2000年代後半には、スマートフォンをはじめとするスマートデバイスが普及し、クラウド・コンピューティング が登場した 。 そしていまでは、IoTInternet of Things)で人とモノがつながり、ビッグデータを人工知能(AIArtificial Intelligence)により解析し、ロボット、ドローンなどの技術によりあらたな社会、いわゆるSociety5.0が実現されようとしている 。

このような情報通信技術の発展にともなって、わが国では、2000年に高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策を推進する目的で「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(平成12 年法律第144 号、以下「IT 基本法」という。) が制定され、「高度情報通信ネットワークの安全性及び信頼性の確保、個人情報の保護その他国民が高度情報通信ネットワークを安心して利用することができるようにするために必要な措置が講じられなければならない。」(22 )こととされた。その後、情報通信社会の進展とともに、さまざまな情報セキュリティに対する脅威が深刻化したことから、日本政府においても2013年に策定された「国家安全保障戦略」において、サイバー空間の防護及びサイバー攻撃への対応能力の一層の強化を謳うとともに、2013年に策定された「サイバーセキュリティ戦略」において、国家レベルのサイバー攻撃に対する対応の強化が示された。このような状況にあって、2014年サイバーセキュリティに関する施策を総合的かつ効率的に推進するため「サイバーセキュリティ基本法」平成26年法律第104が制定された。

その後、情報セキュリティ対策を考慮した個別分野における法律改正がなされるとともに、各種法令やガイドラインによりサイバーセキュリティの確保に務め、安全・安心なサイバー社会の構築への努力が続けられている。

※サイバーセキュリティ関連法令について諸論点についての簡明な解説として、内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)『サイバーセキュリティ関係法令Q&AハンドブックVer1.0』(202032日)が公表された。 

【著作権は、安冨氏に属します】