第621号コラム:手塚 悟 理事(慶應義塾大学 環境情報学部 教授)
題:「トラストサービスの動向について」

1 トラストサービスの重要性
我が国においては、現在Society5.0の実現に向けて、官民が一体となって推進しています。「Society5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会である。」と内閣府のホームページでは書かれています。

このSociety5.0のシステムは、筆者なりの解釈では、データ・ドリブン・アーキテクチャであり、複数のデータ群を高度に融合して、イノベーティブな新たなサービスを実現することが最も本質的な価値であると考えています。そこで最も重要な点の一つは、データの「真正性」であります。もし、このデータの「真正性」を確保できなければ、Society5.0は極めて脆弱な基盤の上に構築されることになるからです。そこで、データの「真正性」を含む基盤を整備することが必須となります。この基盤に当たるのが「トラストサービス」です。

2019年6月21日閣議決定された「成長戦略フォローアップ」に記載されているトラストサービスの内容は、「サイバー空間での自由で安心・安全なデータ流通を支える基盤として、データの改ざんや送信元のなりすまし等を防止する仕組み(トラストサービス)の在り方について、国際的な相互運用性の観点も踏まえて、2019年度中を目途に結論を得て、速やかに制度化を目指す。」とのことで、2019年度総務省の「トラストサービス検討ワーキンググループ」(筆者が主査)で最終取りまとめを作成し、その親会である「プラットフォームに関する研究会」において最終報告書を作成いたしました。

また一方、新型コロナウイルスの感染症対策として2020年4月7日に緊急事態宣言が発令され、「人との接触を8割削減」する取り組みをするようにとの要請がされています。しかしながら、企業においては、テレワークの徹底を図ろうとしても、契約書等への押印については、現在の法制度や商習慣上、紙ベースでの対応が中心であることより、折角テレワークで契約書等を電子文書で作成しても、わざわざ押印のためだけに会社に出社するという作業が必要であり、8割削減に貢献できないという社会問題が起きています。

これに関しても、4月27日(月)経済財政諮問会議において、「テレワークの推進に向けて、押印や書面提出を必要条件として求める制度・慣行の見直しについて、規制改革推進会議において緊急要望を受け付け、対面または郵送手続きからデジタル対応への移行を進め、不必要な接触を減らすとともに、事務コストの徹底削減を実現すべき。」との西村内閣府特命担当大臣木谷会見要旨に掲載されています。

つまり、テレワークを最大限活用するためのデジタル・トランスフォーメーションを推進するには、「対面、押印、書面」の3原則の規制を改革する必要があります。
① 対面 → 電子認証
② 押印 → 電子署名
③ 書面 → 電子文書

以上の背景により、トラストサービスの重要性が益々高まってきています。「アフター・コロナ」を見据えて、今からトラストサービスを強力に整備していくことが、今後の我が国の発展に必要不可欠であると確信しています。

2 EUにおけるトラストサービスの動向と国際連携
諸外国におけるトラストサービスの動向を見たときに、最先端で進めているのがEUです。その状況及び、トラストサービスの国際連携については、以下のようになっています。

(1)EUにおけるトラストサービスの動向
EUでは、トラストサービスをEU域内に普及させる政策として、2014年にeIDAS(electronic Identification and Authentication Services)規則を制定し、2016年7月に発効しています。この規則は、1999年に電子署名指令を策定した後、EU域内27か国でのより安心安全な統一した電子商取引市場、いわゆるDigital Single Marketを実現するために、電子署名のみならずタイムスタンプ、eシール、Webサイト認証、eデリバリー等の共通規則を定めたものです。2019年度総務省の「トラストサービス検討ワーキンググループ」で最終取りまとめ報告書を作成いたしました。

以上のことより、EUにおいては、トラストサービスの普及促進が、法制度を含めて堅実に推進されていることがわかります。

(2)トラストサービスの国際連携
EU域内27か国では、eIDAS規則を策定することで、より安心安全な統一した電子商取引市場を実現してきています。そこで、我が国の国内でのトラストサービスの普及はもとより、国際間でのトラストサービスの連携も重要な課題ですので、世界の経済圏を踏まえ、日本とEU、日本とUSにおいて、トラストサービスの国際連携を検討していく必要があります。

具体的には、我が国で作成した日本の電子署名付き電子文書をEU側でも正当に受け入れてくれるか、またEU側で作成したEUの電子署名付き電子文書が我が国でも正当に受け入れられるか、という相互認証が実現できるかどうかが大きな課題です。これについては、筆者が立ち上げた国際的ワーキンググループ(IMRT-WG : International Mutual Recognition Working Group)で、現在検討をしています。

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