第631号コラム:和田 則仁 理事(慶應義塾大学 医学部 一般・消化器外科 講師)
題:「Life with new normal」

2020年1月28日、国内で初の新型コロナウイルス感染例が確認され、1月31日WHOが緊急事態を宣言、2月5日には横浜沖に停泊中のダイヤモンド・プリンセス号で集団感染が判明した。それ以降、連日トップニュースで新型コロナウイルスが報じられ、4月7日に7都府県に緊急事態が宣言され、4月16日には対象が全国に拡大された。

私が勤務している大学では講義はすべてリモートとなり実習は中止となった。医学教育において、現実の患者さんを教材とした臨床現場でのマンツーマンの臨床実習は極めて重要な意味を持つが、それさえ半年以上にわたって中止せざるを得ない状況に置かれている。新入生は登校することなくリモート講義のみで、部活動やサークルにも参加できないでいる。大学のキャンパスはこれまでとは全く別の姿に変容してしまっている。社会の多くの場面で同様の事態になっていることと思う。

COVID-19感染症は第2波を迎えたが、感染者数は漸減傾向にあるものの、感染者数がゼロになることは望むべくもないであろう。新型インフルエンザウイルスのSARSやMERSは新規感染者数がゼロになることで収束となったが、COVID-19感染症が同じ道をたどることはもはや絶望的といえる。ワクチンへの期待も、新型コロナウイルスに対する獲得免疫の脆弱性から薄れてきている。COVID-19感染症の特効薬開発も目途は立っていない。人類は今後数年にわたりこのウイルスとの共存を余儀なくされるのであろう。

ほとぼりが冷めたらかつての生活に戻る、ということはまずあり得ないといえよう。我々は新たな生活様式の中で暮らしていかざるを得ないのである。しかし、現代の情報技術(IT)は、このような生き方を力強く支援してくれている。もし、この感染症が20年前にブレークしていたら、社会的ダメージは尋常ではなかったであろう。スマートホンなどの携帯端末、安価な高速回線や無料のビデオ会議システムがなく、電話やFAXなどの古典的ツールのみで在宅勤務や学習を行うことになれば、社会的ダメージは甚大であったと思われる。

現在の社会インフラを活用しながら、どのような生活様式で感染拡大による社会的影響を最小限に食い止めることができるのかを考える段階であろう。そこで重要なのが、どの程度のリスクを許容するかと、費用対効果の観点であろう。ゼロリスクは現実的ではない。いまだに緊急事態宣言を求める声も聞かれるが、費用対効果の観点で賢明とは言えないだろう。玄関で衣服を脱いで浴室に直行するというスタイルも、ゼロリスクを追求するメンタリティとして疑問に感じる。衣服に付着しているかもしれないウイルスが、どれほど感染力を有しているのか、疫学的にはほぼゼロであろう。やはり感染の主たる経路は、口、鼻(一応、肛門も)からの飛沫と、ウイルスが付着した手指で顔を触ることでの感染であろう。飛沫は、マスクとsocial distancing(3密回避)でかなりリスクを下げられるはずである。問題はマスクを外す必要のある飲食時である。ゼロリスクにするなら、ひとりで黙って食べるしかないが、これは持続可能な対策とはいえないだろう。家族など健康状態を把握している親しい人と、小数での食事に限って許容すべきだろう。街中では既に、居酒屋等で大声を張り上げて宴会をしている場面が見受けられるが、これはいかがなものかと思う。比較的ローコストで対策をするのであれば、アクリル板で個々の席を仕切り、換気をよくすることであろうが、そもそも大人数での宴会というものの必要性を考え直すべきなのかも知れない。手指のウイルスは、手洗いとアルコールで十分であろう。手洗いは、当初ハッピーバースデーを2回歌う時間といわれていたが、これもナンセンスである。手術のための手洗いではそこまでやるのが普通だが、日常生活の中に取り入れるのは無理である。普通に石鹸で洗って流水で流せば感染性はほぼ失われるはずである。アルコールも、いろいろと言われてはいるが、感染力をかなり下げることは間違いないであろう。むしろ、1回の対応でゼロにすることより、頻回に行うことの方が有意義であろう。家庭内感染がクローズアップされているが、これは防ぎえない。一般家庭で上記の対応を徹底することは、別の意味で問題を引き起こすことにもなるであろう。同居家族が感染したら、接触者対応をしっかりとするしかないだろう。大事なのは家族間で体調を把握し、誰かに異常があれば全員が外出を控える等の対応を取り、外部に濃厚接触者を作らないようにすることである。

クラスター対策は有効な手段のひとつだと言えるが、費用対効果は検証する必要があるだろう。現状ではギリギリ機能しているのであろうが、新規感染者数が一定数を超えた場合には無理である。その段階になれば、ITの登場である。新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAは、利用者が少ない点が課題とされている。緊急事態宣言を出すぐらいの強権を発動するのであれば、アプリ利用の義務化も検討すべきである。特に都市部に限定してでも実施すべきであろう。コストは低い。COCOAについては情報公開が求められる。COCOAによる通知で、どの程度濃厚接触者を補足できたのか、データを持って示すべきであろう。医学的には感度と特異度が知りたいところであるが、当然、情報セキュリティとデジタル・フォレンジックの観点からも検証が必要である。

最近ではニュースのトップがコロナ以外になることが当たり前となってきた。もはや、life with new normalの段階に入っているといえよう。

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