「デジタル・フォレンジック優秀若手研究者賞」は、デジタル・フォレンジック研究の活性化を目的として、デジタル・フォレンジックに関する優れた若手研究者を表彰するために、第14期に初めて設けられ、昨年もデジタル・フォレンジック・コミュニティの場で表彰式を実施致しました。
本年も「第17期デジタル・フォレンジック・コミュニティ2020 in Tokyo」にて、4回目となる表彰式を行いました。
最優秀賞:
脇田 和宏 様(警視庁)
「外国人被疑者取調べにおける通訳システムのプロトタイプの開発と評価」
(受賞理由)
本研究は,「将来的に外国人被疑者取調べにおける通訳のシステム化を目指すため,音声認識や自動翻訳の機能を導入するとともに,不正のないことの証拠性を確保するための3つの方式(ブロックチェーン,ヒステリシス署名,電子署名)を検討し,プロトプログラムを開発したうえでコストと実用性の評価を行ったものである.この結果,もう少し音声認識精度の改善が望まれるものの,基本的な機能は実装でき,その改ざんの正確でコスト効果の良い検知のためには,ブロックチェーンとヒステリシス署名を使う方式が最も望ましいことを明らかにした.」とするものものである.
本論文は,現実的ニーズに対応したものであると同時に,ラズベリーパイなどを用い実際にプロトシステムを構築し,種々の実験を実施しており,実用性と技術的な新規性の両面によって「最優秀賞」とした。
優秀賞:
宇山 鉄也 様(警視庁)
「匿名ネットワーク(Tor)にある フォーラムのトピックスに関する分析・評価」
(受賞理由)
本研究は,「ダークウェブ内のコミュニティであるフォーラム サイトに焦点を当てログイン認証のある英語で書かれたサイト とロシア語で書かれたサイトを対象とした各サイトのスレッド名から特徴(興味の傾向)を語の共起関係によりキーワードを抽出する手法とトピックモデルである手法とを用いて特性を解明しようと試みたものである.その結果,英語ベースのサイトはマルウェアなどの悪意のある攻撃的な議論のものが特徴的で,ロシア語ベースのサイトはカードディング 関係の議論が多いという特徴の違いがあることを示すとともに,共通的にランサムウエアへの関心が引き続き高い」ことを明確化したものである。
本論文は,現実的ニーズに対応したものであり,その後出現した脅迫型ランサムウエアの出現を非常に早い段階から言及しており,実用性と新規性の両面から、「優秀賞」とした。
優秀賞:
長谷川 翔 様(静岡大学)
「視覚型欺瞞機構と定期ログ分析の併用による標的型攻撃対策」
(受賞理由)
攻撃者は,あらゆる手を使って標的PCへ侵入し,目的の達成を試みる.今や,攻撃者に侵入された後でも,攻撃者の活動を阻害・緩和する技術が求められている.このような昨今のサイバー攻撃の深刻化およびその検知・対応の難しさに対抗するために,被推薦者は視覚型欺瞞機構と定期ログ分析の併用による標的型攻撃対策を提案した.視覚型欺瞞機構とは,PC内にダミーデータを配置することによって侵入者を惑わす欺瞞化方式の一種であり,正規ユーザと攻撃者との通信環境の違いが,PCの操作における「視覚情報の差」として表出ることを利用して,正規ユーザの利便性を保ちながら,攻撃者の活動を遅延させる欺瞞機構を実現している.そして,この視覚型欺瞞機構と定期ログ分析を併用するというアイデアが,フォレンジックの観点からの提案方式の大きな特長となっている.すなわち,欺瞞機構を用いて攻撃者の侵攻のスピードを緩和させることによって,処理コストの大きいディープフォレンジックを定期的に実行する時間を確保することを達成している.このように,被推薦者の研究内容はフォレンジック技術の高度化に関する貢献が認められることから「優秀賞」とした。