第647号コラム:安冨 潔 会長(京都産業大学 法学部 客員教授、慶應義塾大学 名誉教授、弁護士)
題:「新しい年を迎えて」

新しい年を迎え、特定非営利活動法人デジタル・フォレンジック研究会((IDF)を代表し、謹んでご挨拶申しあげます。

2020年に世界的規模で拡大した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、社会・経済に重大な影響を与え、我々は、これまでに経験したことのない日常社会生活の変化を余儀なくさせられています。  テレワークやWeb会議、遠隔授業などICTの有効活用を通した事業や教育環境の変化は、ニューノーマル時代とよばれる今日の社会におけるデジタル変革の具現化をもたらしました。そして、これからはさまざまな分野でのデジタルトランスフォーメーションが進展し、多元的な新たな社会の発展が期待されます。

情報システムの進化及び情報通信ネットワークの普及によりインターネットというインフラストラクチャーが構築され、それを利用した「サイバー空間」においてさまざまな先端技術の利活用やサービス提供によって新たな価値の創造がなされていくことはめざすべき社会の在り方といえるでしょう。

しかし、このような情報社会が発展する一方で情報通信技術を不正に利用して情報システム又は情報通信ネットワークの社会的信頼を損ねる行為も少なからず生じていることは周知のところです。マルウェア感染やコンピュータ及びネットワークに対する侵入・改ざん・サービス運用妨害などのいわゆるサイバー攻撃、また個人情報や組織体の機密情報の漏えい、暗号資産事業者を狙ったフィッシングサイト等の深刻なサイバーセキュリティリスクが高まっています。

今日、サイバー空間は、実空間と一体となって「サイバー社会」を形成しています。このようなサイバー社会が自由、公正かつ安全であるためには、サイバー空間における潜在的な不確実性に留意しつつ、脅威に対するサイバーセキュリティの確保が求められているといえるでしょう。

このような状況を受けて、これからの時代を見据えた諸施策をより一層強化し、社会に貢献していくためには、デジタル・フォレンジックが一層重要となってくると考えております。

2004年に活動を開始したIDFは、今年5月で第18期を迎えることとなります。この間、「デジタル・フォレンジック事典」(初版、改訂版)、「基礎から学ぶデジタル・フォレンジック」を刊行し、時代にあわせたデジタル・フォレンジックの要諦をまとめた「証拠保全ガイドライン」の改定を重ね、さまざまな「分科会」や「IDF講習会」、そして恒例の「デジタル・フォレンジック・コミュニティ」を行ってきました。また、昨年よりデジタル・フォレンジック資格認定(DF資格認定)のためのデジタル・フォレンジック・プロフェッショナル認定(CDFP: Certified Digital Forensic Profesional)試験を実施しております。

今後ますます必要とされると想定されるデジタル・フォレンジックの重要性についての普及・啓発活動を一層充実させるために、今後も会員の皆様のお役に立てる研究会として参りたいと思います。

引き続き皆様のご支援とご協力を賜りたく、何卒よろしくお願い申し上げます。

末筆ながら、皆様のますますのご多幸とご発展をお祈りし、年頭のご挨拶とさせていただきます。

【著作権は、安冨氏に属します】