第655号コラム:守本 正宏 理事(株式会社FRONTEO 代表取締役社長)
題:「サプライチェーン分析と経済安全保障について」

今や軍事技術が先端技術として活用される時代から、民間技術が軍事技術に転用される時代へと変化し、最先端技術を持つ人や企業、サプライチェーンを把握し確保することは国家の安全保障にかかわる事項となってきました。つまり、経済安全保障という考えが今や国家戦略、企業のグローバル戦略を考える上で必須となっています。

例えば、現在、新型コロナウィルス感染者拡大に歯止めをかけようと、ワクチンの確保は喫緊の課題となっています。各国が自国民のために優先的に確保しようとすることは当然の事であり、EUが域外提供を阻止しようとすることも当たり前のことでしょう。人道的観点から占有すべきではない、という考え方は建前としてはあるでしょうが、政府が自国民を犠牲にしてまで他国に出したくはない、と考えるのは自然なことです。

サプライチェーンの確保は、もちろんワクチンに限らず、あらゆる分野において重要です。製造元と供給先を適切につなぎ、安定供給を図るためには、その供給ルートであるサプライチェーンを知り、チョークポイントがどこなのかを理解することが重要になってきます。例えば、半導体の原材料が最先端のチップになるまでには、複雑なサプライチェーンを経ていますが、その過程にチョークポイントがあれば、その支配は半導体業界全体の支配を意味します。チョークポイントは企業や企業の立地場所だけではありません。様々な意味でのチョークポイント(技術的な課題、自然災害、サプライチェーンの各ポイントを支配している人々の思惑など)複雑に絡まるあらゆる要因を考慮し、戦略策定をしなければなりません。

また、サプライチェーンを正しく知ることは、安定供給を図るだけでなく、不適切な供給ルートを見つけ、その問題を解決することにもつながります。例えば反社会勢力が供給ルートのどこかを抑えていることで、知らず知らずのうちに私たちが反社会勢力とつながり、彼らの維持、成長に寄与してしまうという事が実際に起こっています。また近年、スマホや自動車などに使われる半導体材料が、紛争地域の劣悪な労働環境のもと採掘され、供給されていることが明らかになってきています。これらの問題がありながらも、本来つながるはずのないコミュニティをつなげている、チョークポイントである組織・団体は表面上ブラックではないことが多いため、供給される側にはそれが見えていないのです。

このような複雑な要因が絡み合ったサプライチェーンの実態を理解するために必要なのが、ネットワーク分析です。本来つながるはずのないコミュニティをつなげているチョークポイントを見極め、その上でさらに持ち株ネットワーク分析によって、企業、国、人物の関係性など、表面上は見えてないかなり深い部分の支配者を理解することが可能です。

まずは知ることが解決の第一歩になります。優れたネットワーク分析技術が、国民の安全、そして、よりよい世界の実現に貢献できるでしょう。

【著作権は、守本氏に属します】