第667号コラム:湯淺 墾道 副会長(明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科 教授)
題:「副会長就任にあたり」
前回、新会長の上原先生執筆のメルマガで会長ご就任にあたっての抱負などが配信されましたが、それに引き続き「副会長就任にあたり」と題しましてコラムを執筆しようと思います。
デジタル・フォレンジック研究会は2004年に設立され、まもなく20周年を迎えることになります。この間、デジタル・フォレンジックを取り巻く環境も大きく変化し、会員の皆様や関係者の皆様のご尽力により、デジタル・フォレンジックそれ自体への社会的認知も大きく向上しました。新聞記事でも、この数年、「デジタルフォレンジック(電子鑑識)」という語が注釈なしで用いられるようになりました。
しかしデジタル・フォレンジック研究会の課題の一つは、実はこの点にあると思います。新たな領域を切り開くのに苦労してきたリーディング組織や、世間の注目を浴びることがなかったニッチマーケットで苦心を重ねてきたパイオニアが、その領域やマーケットがメジャーになったとたんに規模の大きい他組織に押されて後塵を拝するような立場に後退してしまうということは、あちらこちらで見られるところです。デジタル・フォレンジックが定着してきた現在こそ、デジタル・フォレンジック研究会の存在意義が問われているように思われます。
この点に関係するもう一つの課題は、デジタル・フォレンジック研究会に対して、若い世代の実務家や研究者から興味を持っていただくにはどうするか、という点です。
情報処理学会は、2015年に従来の学生無料トライアルを移行してジュニア会員制度を発足させました。ジュニア会員は、大学生や中高生だけではなく、小学生にも会員資格があるのです。小学生も会員に迎えるというこの制度が発足したとき、さすがに露骨な「青田刈り」だといって嘲笑するような声もありましたが、情報処理学会のような大きな学会組織でも、若い世代への情報発信に本気になって取り組んでいる例の一つといえるでしょう。
どうすれば、デジタル・フォレンジックに若い世代の方々の関心を向けていただけるようになるか、会員の皆様、関係者の皆様のお知恵も拝借したいと思います。ご協力をお願い申し上げる次第です。
さてお願いばかりでは恐縮ですから、最後にひとつフォレンジック関係の話題にも触れてコラムを閉じることにしたいと思います。
アメリカの国防高等研究計画局(DARPA)は、2021年3月に「セマンティック・フォレンジック」を研究するためのチームを選定したと発表しました。
DARPAのセマンティック・フォレンジックは、テキスト、画像、動画像(ディープフェイク)という形式で大量に流布されている虚偽情報等を自動的に分析し、その真偽を明らかにすると共にその拡散経路や流布意図などを多面的に分析するアルゴリズムの開発をめざしているようです。デジタル・フォレンジックの一つに従来からもネットワーク・フォレンジック技術がありましたが、DARPAのセマンティック・フォレンジックは、さらに大規模かつ多面的なフォレンジックを自動的に行うという点で、かなり野心的なものに映ります。この技術の開発者として選ばれたのはロッキード・マーチンだそうで、開発主体がDAPRAであることといい、軍事的な狙いを持っていることは明らかですが、開発成果が民間技術にもスピンオフされるのか、特にサイバー犯罪の捜査等の技術にも応用可能になるのかどうか、今後の推移に注目したいと思います。
【著作権は、湯淺氏に属します】