第685号コラム:舟橋 信 理事(株式会社FRONTEO 取締役、株式会社セキュリティ工学研究所 取締役)
題:「危機管理、想定外を想定する」
62年前、昭和34年9月26日に東海地方に来襲した伊勢湾台風は、高潮と満潮が重なり愛知県、三重県中心に甚大な被害をもたらした。
同年10月11日の読売新聞朝刊の記事(一部抜粋、以下同じ)、「水魔を座して待つ忘れられた避難体制」では、「半田市では・・・ほかのところより1時間早く8時半過ぎ“万里の長城”とうたわれた衣ヶ浦海岸堤防(28年の13号台風後建設省直轄工事で完成したもの)が約2キロにわたって決壊した。そして330人の命が押し寄せた波浪にのみ込まれた。」と、また同年9月28日の中部日本新聞朝刊の記事、「防潮堤を市民過信」では、「市から26日午後4時、避難命令が出されたが、避難したのは僅か4、50人だった。・・・ 完全な護岸工事が行われ、・・・市民が安心していたのではないか。海岸堤防が切れ、たちまちのうちに水深2.5mから3mに達したので逃げる隙がなかったのだろう。」
次に、平成23年3月11日に発生した東日本大震災の津波に関する新聞記事の一部を紹介する。
同年3月27日の産経新聞電子版の記事、「日本一の防潮堤を過信 岩手・宮古市田老地区『逃げなくても大丈夫』」、「『日本一の防潮堤』を過信していた。過去の津波被害を教訓に、高さ10mの防潮堤が整備された岩手県宮古市田老地区。東日本大震災では、大きな津波が防潮堤をあっさりと越えた。市によると、防潮堤を信じた結果、犠牲になった住民は少なくないという。」(同地区は、昭和41年に総延長2433m、海面高10mの防潮堤が完成し、平成15年には「津波防災の町」を宣言していた。東日本大震災では津波で防潮堤が約500m決壊し、多くの犠牲者がでた。)
いずれの事例も、過去の最も潮位の高かった高潮や津波に対処できるよう、防潮堤が設置され、地元住民は、「万里の長城」として信頼をよせていたためか、多くの住人が避難せずにいたところを想定外の潮位が襲ったため甚大な被害が出た。
近年、地球温暖化の影響か台風や豪雨による被害が大きくなっている。防潮堤等の災害対策設備を設置するにしても、予算と実効性から、千年に一度の災害に対処などできるものではない。当然想定を超える災害が来襲するものとして、運用面から避難対策を考えていくことが肝要である。
【著作権は、舟橋氏に属します】