第695号コラム:熊平 美香 監事(一般財団法人 クマヒラセキュリティ財団 代表理事)
題:「ダイバーシティ(多様性)」

ダイバーシティ&インクルージョンは、今日、企業の持続可能性に欠かせない取り組みに発展しています。

ダイバーシティには、デモグラフィー型とタスク型があると早稲田大学の入山章栄教授は説明しています。デモグラフィー型は、性別、国籍、年齢など属性の多様性、タスク型は、能力や経験、知見など目に見えない多様性を指します。

私は、この2つのダイバーシティの要素に加えて、主体性の重要性を提唱しています。デモグラフィーが同じでも、タスクの要素で見れば、一人ひとり人間は違う経験をし、違う背景を持っています。しかし、同調圧力が強く、受け身で仕事をする環境では、だれもが、自分個性を出すことなく仕事に没頭するため、その結果、ダイバーシティが存在しないに等しい状態になってしまいます。

ダイバーシティが化学反応を起こすことで、イノベーションが生まれると言いますが、多様な人々を集めれば、イノベーションが生まれるというシンプルな方程式ではありません。多様な人々が、イノベーションを生むためには、いくつかの前提条件をクリアすることが必要です。

多様性が化学反応を起こすための前提条件

・管理型組織から自律型組織にシフトする
管理型組織から自律型組織にシフトすることは、多様性を活かす上で欠かせません。一人ひとりが、内発的動機に基づき、有りたい姿に向かって、自ら考え行動し、リフレクションを通して成果を出すことができる組織になることで、一人ひとりの潜在能力が開花します。

・同質性を大事にする文化から、多様性を尊重する文化にシフトする他者の話を聴く時に、「私も同じことを考えていました」と、同じ意見を強調するのが同質性を大事にする文化です。多様性を尊重する文化では、私には、その考えは全くありませんでした。もっと話を聞かせてください」と違いに焦点を当てたコミュニケーションが中心になります。

・心理的安全性を担保する
異なる意見や、自分が思ったことを躊躇することなく話すためには、心理的安全性が欠かせません。こんな馬鹿なことを言ったら、人はどう思うのだろうかと不安な状態で、人はオープンに自分を出すことができません。また、失敗ができない文化では、自分の意思でチャレンジすることも難しいです。誰もが、自分を出すことを不安に感じることなく、素の自分を出しても受け入れてもらえる環境があることが大事です。

・レベル2の人間関係を目指す
「レベル2の人間関係」は、米国の心理学者がエドガー・H・シャイン提唱した人間関係の定義です。これまでのレベル1の人間関係は、単なる業務上の役割や規則に基づいて、監督・管理し、業務を遂行する関係で、ほどほどの距離感を保った支援関係であると説明しています。そのうえで、今日の組織に期待されるのは、友人同士や有能なチームに見られるような、個人的で、互いに助け合い、信頼し合う関係であると言います。この関係性が、心理的安全性を支えます。

・エンゲージメントを高める
エンゲージメントという言葉を世界に広めたギャロップ社が行ったエンゲージメント調査では、日本のビジネスパーソンのエンゲージメントは6%というとても残念な結果です。イノベーションで溢れる組織を実現するためには、一人ひとりのエンゲージメントを高める必要があります。そのために、4つの視点が大切です。

①パーパス:誰もが、仕事の前提となる意義ある目的(パーパス)を実感できる。
②つながり:レベル2の人間関係を実現する。
③存在:誰もが、自分の強みを活かし貢献し、それを周囲も認識している環境を実現する。
④成長:誰もが、成長し続ける機会と支援がある環境を実現する。

多様性が価値創造につながるために、5つのことにチャレンジしてみてください。
・管理型組織から自律型組織にシフトする
・同質性を大事にする文化から、多様性を尊重する文化にシフトする
・心理的安全性を担保する
・レベル2の人間関係を目指す
・エンゲージメントを高める

多様性が化学反応を起こし、イノベーションで溢れるチームや組織が増えることを願っています!

【著作権は、熊平氏に属します】