第715号コラム:伊藤 一泰 理事(近未来物流研究会 代表)
題:「ロシアのウクライナ侵攻と日本の進むべき道」

ロシアがウクライナに侵攻してから早いもので2カ月が経過した。最初、あの映像を見たとき、はたしてこれは現代の映像なのかと目を疑った。第二次世界大戦のようなロシア軍戦車部隊の進軍映像であった。翻って、日本でもこのような事態が起きるのだろうか。

ロシア軍の上陸用舟艇が北海道のオホーツク海沿岸に着岸し、ロシアが北海道の東半分を占領するという可能性はゼロではないと思うが、今すぐに起きるとまでは言えないであろう。それよりは北朝鮮の動きが気になる。北朝鮮は、今年に入って核弾頭搭載可能なミサイルの発射を繰り返している。このような中、政府は、自治体と共同で、住民の避難訓練を約4年ぶりに再開する方向で調整していると明らかにした。

ミサイルを想定した住民避難訓練は、国民保護法に基づいて国が自治体と共同で行うものだ。だが、政府は、2018年6月以降、実施を見合わせてきた。北朝鮮からミサイルが高い頻度で発射されている。にもかかわらず、これから「調整」とは何と悠長な動きだと、のんびり屋の筆者でさえ心配になってくる。実際、具体的な再開時期については決まっていないという。

ロシアのウクライナ侵攻以降、自民党の有力政治家から「核共有」なる勇ましい意見が出ている。どさくさに紛れて何を図ろうとしているのか、もやもやした不安な気持ちになってしまう。近隣諸国から、日本は核保有を目指していると見られることのデメリットが大きいと思う。

それより早く着手して欲しいのは、ミサイルを想定した住民避難訓練である。北朝鮮のミサイルは、最近、急速に技術進化してきたようだ。「極超音速ミサイル」という音速の5倍(マッハ5)の速さで飛翔するミサイルが確認されている。これは迎撃が極めて難しい。発射を探知できたとしても日本に着弾するまでは、ほんの数分だ。

その時に我々は何ができるのか。地震や津波の避難訓練は、たびたび行われているが、北朝鮮のミサイルに対応した避難訓練はやったことがない。いったいどこへ逃げ込むのが良いのか。普段から何を準備すべきなのか。 皆目、検討がつかない。

この点、ウクライナの現状は、多くの示唆に富んでいる。まず、地下鉄である。キーウ(キエフ)地下鉄「アルセナーリナ駅」は、深さが105メートルもある。冷戦時代に核戦争に備えて作られたという。水や食料の備蓄はどのくらいあるのだろうか。空調や換気設備はどんな風になっているのか。

日本の地下鉄駅で一番深いのは、都営大江戸線の六本木駅である。深いといってもキーウ地下鉄の半分以下の42メートルだ。ここにどのくらいの人数が避難できるのかわからないが、現状では、混乱状態で誘導がままならないものと思われる。いざという時に、具体的に避難できる場所を明確にして、早く訓練を開始しないと間に合わない。

次に、原子力発電所への攻撃対策である。ロシア軍がウクライナのチェルノブイリ原子力発電所を占拠したというニュースがあった。さらに欧州最大規模のザポリージャ原発を制圧している。

翻って、日本はどうだろうか。日本で最大(世界的にも最大規模)の原発は、新潟県柏崎市にある柏崎刈羽原発である。ここは、ミサイル発射を繰り返している北朝鮮に近い場所だ。北朝鮮と日本海をはさんで対峙しており、北朝鮮のミサイルによる攻撃は、実際に起こりうる話である。

この原発は、2021年に社員によるIDカードの使いまわしが発覚している。これによる中央制御室への不正入室が繰り返し行われていたようだ。また、外部からの侵入検知装置を壊れたまま放置するなど、テロ対策の不備が相次いで見つかっている。日本には、原発攻撃に関わる世界最大の標的があり、しかもその防御は手薄のままという現状がある。

これから日本が進むべき道は、ウクライナの現状に学び、日本が抱えている問題点や課題に真摯に向き合っていくことだと思う。

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