第736号コラム:櫻庭 信之 理事(シティユーワ法律事務所 パートナー弁護士)
題:「法務委員会の議論に垣間みる改正民事訴訟法の近未来」


民事訴訟法等の一部を改正する法律が今年(2022年)5月国会で可決成立しました。成立に先立ち、国会の法務委員会審査では民事訴訟法の多くの論点について意見陳述や質疑がなされており、本コラムではその一部をご紹介いたします。

衆議院の法務委員会では、民事訴訟への将来のAI活用を意識したやりとりが見られるのが特徴的です。たとえば、民事判決のオープンデータ化(そのプライバシー保護の水準等に関する特別法の必要性は町村理事が執筆された第728号コラムご参照。)については、現在AIを活用した氏名・住所等の匿名処理の実証実験が進められていることが紹介されたほか、判決情報のオープンデータ化を当面先行させつつも、AI等の技術の進展に伴い訴訟記録全般にも拡大し第三者の記録へのアクセスを高める構想なども述べられています。

AIによる法的判断の問題に対しては、AIは司法の補助者にはなり得てもジャッジメントは人間が行う、国民の受け入れもない、AIはツールであり人間が入口と出口を押さえることが重要、などの意見が委員会で述べられました。

質疑では、デジタル・フォレンジックの必要性も指摘されています。「証拠データを改ざんしたという歴史もございます。そういった場合に、フォレンジック、これをどのように、法的な証拠を見つけて鑑識作業を行うということも場合によっては必要になってくるわけでございます。」と述べる委員からの質問に対し、「まさに委員御指摘のような、フォレンジックを行うというために有力な情報、情報というか証拠になりますものが、先ほどの、ログをきちんと記録しておくということが出発点になるというふうに理解をしておるところでございますので、こちらの対策等々を講じてまいりたい」との答弁がなされた。

訴訟への将来のAI導入を見据えた証拠のデータ形式について、別所参考人が意見を述べています。少し長くなりますが、そのまま引用します。

「訴訟に関していうと、提出されるべき証拠類というのが、元々、オリジナルがデジタルというようなものが増えている状況にあるというふうになっています。こういう環境を考えたときに、人々が一般的に使っているようなツールと似たような、同じような環境で裁判手続にアクセスができる、データをそのままデータとして裁判に提出することができるというようなことになれば、当然、利便性が高まりますし、アクセスが容易になるということは想像に難くないというふうに考えております。(略)デジタル化というのは入口から出口まで一貫してデジタル化を進めるということですので、そういった形でのデジタル化というのが目指すべき形ではないかなというふうに思っております。デジタルで作ったものを紙に変えた瞬間に、非常にデータへのアクセス性というのが落ちてしまいますし、データの持っている貴重な価値というものが全て失われてしまう、データとしての財産が失われるということになるというふうに思っております。先ほど少し契約書のところで触れさせていただきましたけれども、今進んでいる契約書のいわゆる電子化は、若干課題があるというふうに認識しております。なぜかというと、今、デジタル署名をしている契約書というのは、PDFと言われているファイルの形式に変換してそれに電子署名がつくというものです。PDFというものは一種の写真のようなものというふうにお考えいただければいいと思っていて、書かれている文字をダイレクトに加工したり検索したり、まあ、一部検索ができる形式もありますけれども、というのができないという形になっています。なので、PDFという形ではなくて、本来であれば、テキストデータと言われているもののまま保管ができて、裁判とかでも提出することができるということが望ましいと思っていますし、訴訟に提出するものも、先日、先ほどちょっと申し上げた司法シンポジウムで仮のシステムのものを少し拝見させていただいたんですけれども、その中にPDFをアップロードするというものがあって、そのPDFをアップロードするという思想で作られたものというのは、多分デジタル化からはかなり遠いというふうに認識しております。なので、デジタルデータをデジタルデータのまま使うというようなことが望ましいというふうに思っています。そういうことをすることによって、例えば、主張の部分を一部書き写したりするというのもデジタル上でできるようになるというようなこともありますし、大量のデータの中から必要な部分を検索して使うということ、あるいは、将来的には、証拠や主張の分析をAIを使ってサポートしてもらうというようなことができるというふうに考えておりますし、裁判がなかなか進まないというような課題についても、デジタル化されていれば、そのデジタル化されたものを使って、どこで遅延が起きているのかというような分析を行って、手続を変えていくというような可能性というのは十分あるというふうに考えております。」

衆参両議院の法務委員会は、改正民事訴訟法案に対し附帯決議をしました。附帯決議は、改正民事訴訟法の施行に当たり政府と最高裁判所が格段の配慮をすべきとした12項目からなります。その1つには、「裁判所の電子情報処理組織を構築するに当たっては、サイバー攻撃などで訴訟記録が流出して訴訟関係者のプライバシー侵害が起こらないよう、適切なセキュリティ水準を確保する」との項目があり、これまでの民事訴訟法にはみられないものです。

改正法の附則126条は、施行後5年経過時に施行状況の検討と、必要なときの所要の措置を講ずることを定めています。ただ、見直しの着手を5年後に行ったのでは措置を講じる頃には不適合が起こる可能性があるため、1年毎更新のストラテジー5年計画、概ね1年単位のタクティクス計画、四半期ないし各月単位のオペレーション計画の遂行を施行直後から始めておくと、5年後の見直しも円滑になるように感じられるところです。

改正民事訴訟法の細目や運用の更なる具体化が今後注目されます。

 

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