第791号コラム:西川 徹矢 理事 (笠原総合法律事務所 弁護士)
題:「帰去来の辞 ~かえりなんいざ~ 

「コロナ禍騒動」は一応収まったようだ。個人的には、第2波で家族の2人が陽性の判定を受け入院したが、いずれも軽微な症状で終わった。私も5回目のワクチン接種までは受けたが、6度目は辞した。ただ、未だに第9波らしき蔓延報道の噂やいわゆる陰謀説、便乗商法問題等も燻り、何らかの形で根の深い化来もあり得そうだ。いずれにせよ国としては、次に予想される事態に備え、先例にしっかり学び、もう少し冷静かつ的確に対応すべきとの反省と覚悟を望む声が多い。

 ところで、この騒ぎの中でも、サイバー攻撃被害の発生が世界各地から報じられる。取り分け、ウクライナ侵攻の現場におけるサイバー技術の有用性、活用性が特に目を引く。戦場での敵情の把握や戦術的精緻さを高めたミサイルやドローンによる攻撃、更には地雷被害の回避等でこれまでにない戦果があったとも伝えられる。しかし、報道される被害現場は悲惨極まりなく、目を覆いたくなるものも多々あった。

 このような情勢下の先月末の29、30日に、新潟の著名な温泉郷で「第25回情報セキュリティワークショップ in 越後湯沢2023」が開催されると聞き、私も参加した。 今年は、コロナ禍明けの余勢も駆って、参加希望者が多く、久方振りにキャパシティが大きく、第1回の大会会場でもあった「NASPA ニューオータニ」において開催され、東日本を中心に400名以上の同好の士が一同に集い、昼夜にわたり、現状の分析や情勢、問題点等を取り上げ、「激変する社会情勢と多様化するサイバーリスクの中で、何を守り、そのためにどのような意思決定をなすべきか」について、熱く論じていた。

 そもそも、私とこのワークショップとの関わりは、私が警察庁情報通信企画課長から新潟県警察本部長に任ぜられた1998年3月から更に数年前にまで遡る。

 当時は、1995年に「Microsoft Windows 95」が世に現れ、世界的規模での情報通信技術の大躍進が始まり、それに伴い諸々の社会変革や新たな問題が噴出し始めた時代であった。その中で、我が国警察も逸早く独自の全国版WANシステム等を全国警察に新規導入するなどの変革を次々と押し進めた。この時は、予想外なことに、私のような門外漢までもがこの渦に巻き込まれ、刑事部門や警備部門のポストを外れ、警察庁情報通信局の筆頭課長に据えられ、その一翼を担うことにもなった。

 実際に辞令を見た瞬間、私にも緊張が走ったが、瞬時に、むしろこれを機に、腹を括って、かつて警察庁支出負担行為担当官として資材調達の刷新に奔走した経験等を最大限活かし、メインフレーマ偏重の警察庁情報通信局体質を存分に改善し、ネットワークセキュリティ技能に長けた若手技能集団の育成に力を入れて、一日も早く組織体質の根源的改革を図ることとしたいと考えた。そして、このタイミングで早速5名の若手中堅職員を集め、局内に警察史上初のコンピュータネットワークベースの犯罪対策支援班を立ち上げた。またこれと同時に、部外の大学教授や著名な技術者の皆さんの協力を得て、前任地和歌山県警時代に広く支援を受けるべく立ち上げた白浜コンピュータ犯罪シンポジュームでの人脈や議論、手法等をも参考にして、東日本の核になる官民協力のサイバーセキュリティの「討議場」構想作りにも着手することとした。

 また、私が、新潟県警本部長に着任した頃から、多くの方々の参加と協力を得て、官民連携したITセキュリティ問題の中核組織作りに動き出し、具体的な組織編成の検討・準備に入った。幸いなことに様々な人の支援やご協力があって、県内のIT分野の若手・中堅の実業家や技術者、大学教授等々との親交を重ね、協力・支援の輪を立ち上げていただき、約半年後に我が国初のコンピュータ犯罪対策に特化した正式な道筋ができた。

 これらの活動から、ワークショップ構想実現の動きが具体化し、遂には1998年11月13、14日の2日間にわたり、第1回目の越後湯沢ワークショップを「NASPA ニューオータニ」に約500名の参加者を得て、国内外の講師を交えての大検討会を実現することができた。

 この検討会は、その後も、嬉しいことに官民のニーズをベースに、収容施設の課題を抱えながらも、年によっては、已むを得ず、会場が何カ所かに分散したりするなどの経緯はあったりしたが、多くの人々の支持を得て、上述の通り今年まで脈々と続いている。取り分け、今年は、コロナ禍明けの機会に久方ぶりに第1回大会の会場でのワークショップを大々的に開催することができ、約500人もの方々が国内各地から一堂に参集していただき、例年以上の熱心な活動が見られた。例によって、その内容は公開する訳には行かないが、例年にも増して一層多岐多様にわたり実りの多いものとなった。

 地域ネットワークと住民セキュリティ、これからのコミュニティの在り方等についてご関心やご興味をお持ちの方々には是非ご連絡いただくか、色々の集会等にドシドシご参加していただき、積極的にご意見、ご要望、ご質問等々を賜われば有り難く存じます。

【著作権は、西川氏に属します】