第796号コラム:辻井 重男 理事(中央大学 研究開発機構 機構フェロー・機構教授)
題:「3層公開鍵暗号の提案 -真正性文化の基盤として」
小学校高学年時代に太平洋戦争を経験した者として、古典暗号(軍事外交暗号)についての関心も深いが、研究者として衝撃的だったのは1970年代後期の公開鍵暗号の発明である。暗号は秘匿手段だった暗号に対し、本人確認等の真正性保証という重要な役割が加わった。1990 年代、情報セキュリティの
重要性が叫ばれ始めた。
とは言ってもセキュリティに関する実感は薄く、セキュリティ=暗号だったので、暗号に関する社会的関心は低かった。しかしながら、また最近、偽情報が課題となっている環境の中で、真正性保証が不可欠になっている。
例えば、大蔵省(当時)に呼ばれると局長さんたちがずらりと並び、RSA暗号について、「貴著「暗号」はよく分かった。しかし、素数って、そんなに沢山あるのか?」と玄人裸足の質問を受けたりした。
また、郵政省(当時)電波監理審議会で、野田聖子郵政大臣(当時)に拙著を差し上げたら「こういう本が読みたかったのですよ」と言われたり、永田町の自民党本部で、朝8時から暗号の講義を頼まれたりしたものである。
その後、電子署名法が施行され、暗号の実用化が進むと暗号は社会基盤の底に沈み、話題性はなくなったが、最近、暗号通貨の普及に向けて、暗号という単語も見受ける ことが多くなった。
ブロックチェーンなどの普及で、中央集権から分散へとシステム構成が変貌し、現実世界と仮想世界が融合する中で、公開鍵暗号の秘密鍵は、生命・財産そのものになり、「秘密鍵こそ命、我が命」になってきたが、そういう社会的認識は広がっていない。
公開鍵暗号の発明は、火薬の発明に匹敵すると書かれている技術史書もあるが、火薬、宇宙、細胞のように、物理的実在感を伴わないので一般の人には認識され難い。
辻井は、永年、上記のように「秘密鍵こそ命、我が命」と唱えて来たが、秘密鍵を盗まれたらお仕舞である。盗難されても盗用されないようにするにはどうすれば良いだろうか。秘密鍵の中に、本人確認情報(例えば、STR-DNA、マイナンバー等)を埋め込んで置き、利用時には、それ等は見せずに、所持していることを、零知識証明するのは如何でしょうか。
というわけで、このような、3層公開鍵方式を提案しています。詳しくは、下記文献等をご参照下さい。
文献
[1] 辻井 才所 山澤 四方 佐々木 鈴木
究極の本人確認のための3層型公開鍵暗号の提案
-マイナンバー・STRの秘密鍵への埋め込みとその利用に向けて、
電子情報通信学会 ISEC(2019-07)
【著作権は、辻井氏に属します】