第812号コラム:宮坂 肇 理事(NTTデータ先端技術株式会社 サイバーセキュリティ事業本部 Principal Scientist)
題:「続:コミュニケーションとセキュリティ」

 2020年4月には新型コロナウイルス感染症(COVIT-19)の緊急事態宣言が発出されてから4年となる。この当時はなるべく人との接触を避け、感染拡大を防止するため企業等はリモートワークによる在宅勤務などの対策が行われた。昨年2023年5月に新型コロナウイルス感染症は感染症法上5類に位置付けられ、行政からの要請や関与などの仕組みから、国民の自主的な取り組みに対応が変わった。生活様式も変化してきており、通勤や通学なども徐々に緩和されており、いま現在だと通勤・通学電車などの乗車率はほぼコロナ前に戻りつつある。企業等はリモートワークをすべてやめるのでなく、リモート勤務とオフィス勤務を併存する(以下、ハイブリッド型)など、コロナ前と働き方が変容している。働き方や環境が併存しているなか従来と異なる課題などが生じている。
 本コラムでは現在の併存環境においてのセキュリティに関連するコミュニケーションについて考えてみたい。

 企業等では会社に出社して業務を行うことが多くなってきたが、リモートワークもそのまま継続しているところや、出社とリモートワークを併用して業務を行うハイブリッド型の勤務形態もある。企業等の従業員からみるとこの数年で暮らし方に合わせて柔軟に働きかたを選択することが定着したことも背景にある。企業等においては生産性の向上、採用活動の魅力化などを目的にリモートワークを継続しているところが多い。
 リモートワークでの企業等の管理面からみた課題については以前に本コラムでも述べているが、一つは企業等のネットワークもリモートワーク環境、クラウドサービス利用などを含めて対象が増えるとともに技術面や運用面などが複雑になり情報システム部門の負荷が増える傾向になっている。管理職等の立ち位置だと日常的な労務管理や業務管理などができにくい、MBWA(Management By Walking Around)などができにくいなど、従来の管理手法では限界が生じ、働き方の多様化により管理業務の負担が増大している。

 働き方が変容するなかコミュニケーションのとりかたも変容してきている。広辞苑によるとコミュニケーションは「社会生活を営む人間の間で行う知覚・感情・思考の伝達。言語・記号その他視覚・聴覚に訴える各種のものを媒介する」とある。例えば会議。会議は、議題を決めて集まって話し合う、意見交換する、意思決定をすることである。従来の会議室では資料の投影を行い、出席メンバで議論し結論を導き出す。ここではコミュニケーションの定義による資料などの投影により情報の伝達を行い、発言等により意思を伝える、メンバ間の知覚・感情・思考の伝達が行われることで行われていた。
 さらに、企業内でもチャットの利用が進んでいる。チャットはインターネットなどでリアルタイムに簡単なメッセージを交換することができ、文字だけではなく音声や動画、ファイルなど様々な情報を送れるようにもなっている。管理職と従業員間、従業員と従業員等の間など簡単な会話はチャットで行われている。また、管理職と従業員の日常的な報告や連絡・相談、従業員間の簡単な情報交換などでもチャットを使うことが増えている。

 コミュニケーションは従来から企業等でもいろいろ課題があるが、リモートワークでは情報を伝達する側と受け取る側での認識の相違がたびたび起こるなどのミスコミュニケーションが多くなってきているという。オンライン会議では発言者が固定される、意思疎通がうまくとれないなどなどで議論を集約したり、合意形成がとりづらいことがある。日常的な会話においても同様の現象が起き得る。チャットが会話の中心となることにより、少ない言葉で多くの情報を伝えようとするため、齟齬が生じやすくなっている。チャットでは簡潔な文章でテンポよくキャッチボールを行うのが普通であることから言葉足らずになることが多く、説明が不十分のまま会話が終わってしまうことにより、相手との認識のズレが生じやすい。オンライン会議やチャットなどではディスコミュニケーションも生じやすいことも課題である。

 さて、働き方が変容するなかで、企業等の生産活動や経済活動を持続的に発展させるために、リモートワーク環境やクラウドサービスなどを活用し、従業員が働きやすく、かつ生産性向上を図るため企業等のネットワークインフラが変化している。しかしながら、運用面など情報システム部門等の負荷が増えるなか、セキュリティのリスクも増加傾向となっている。さらに、従業員等によるセキュリティ上の過失などによるセキュリティ事故も増えつつある。企業等はセキュリティリスクの変化を速やかに把握して対策を講ずることが求められている。
 従業員等のセキュリティ上の対策としてはルールを策定し、ルール順守のための教育、日常的な管理職等による指導などを施すことが一般的である。”衆人環視”や”MBWA”も効果的と言われている。多様な働き方となった現代、企業等としても管理職や従業員等でも従来のやり方に工夫が必要となってくる。

 従業員等がセキュリティを意識した日常的業務を行うためには、まずはセキュリティルールについての理解が必要であるが、行動に移すためには従業員がルールを納得して、自分事として承認することが必要となる。承認する行為がない限りは”やっているふり”をするだけでセキュリティを意識した行動にはつながらない。管理職の立場だと、従業員等へセキュリティの大切さは指導していても浸透しない、ヒアリアットなど含めて連絡や報告がない、などが悩みになっている。
 管理職と従業員とのギャップのひとつが現代の働き方のなかでのコミュニケーションにも課題があるかと考える。リモートワークが続き、管理職と従業員のコミュニケーション、従業員同士のコミュニケーションなどが対面で会話することから、オンライン会議やチャットなどに置き換わることにより、ミスコミュニケーションなどが起きやすくなっている。加えて、会議室での対面会議やオフィス業務が通常であった世代と、学生時代からリモート授業やSNS等のチャットに慣れている世代とのギャップも生じてるのであろう。ルールを一方的に順守しなければならないと教育することは必要ではあるが、「なぜルールを守らなければならないのか」「ルールを守らなかったらどうなるのか」「ルールを守るとうれしいことがある」など管理職を含めた従業員等が”納得”して、自分事として”腹落ち”しなければならない。これらには常日頃の円滑なコミュニケーションを行うなかでも、セキュリティに関しても双方向の話題として進めることは大切である。

 セキュリティの重要性・必要性などを伝えるコミュニケーションはますます重要であり、オンライン会議やチャットなどツールや意思疎通の方法が多種多様となり、業務のやり方や進め方も変化しているなか、”セキュリティ”と”コミュニケーション”はますます重要となってきているなか相互に伝えるためのさまざまな工夫が求められている。

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