第822号コラム:伊藤 一泰 理事(富士インフォックス・ネット株式会社)
題:「日本の人口減少問題について」

1.日本の総人口減少問題
戦後、日本の総人口は増加を続け、1967年には初めて1億人を超えたが、2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じた。国立社会保障・人口問題研究所によると、今後ますます減少が進んでいくものと推計される。すなわち、総人口は、2020年の国勢調査による1億 2,615万人が 2056年には 1億人を割って9,965万人となり、2070年には8,700万人になるという。2020年の69.0%まで減少してしまう。しかも総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は、2020年の28.6%から2070年には38.7%へと大きく上昇する。
民間の有識者でつくる「人口戦略会議」(議長・三村明夫日本製鉄名誉会長)が、人口推計に基づいた全国自治体の持続可能性について分析したところ、「消滅可能性自治体」が744に上ると発表した。「消滅可能性」と言う表現は、違和感を感じるし、いかにも、こなれていない造語である。ふつうの表現なら「消滅の危機にある自治体」ということだろう。いずれにせよ、全国1,729市区町村の4割以上にあたる744の自治体が2050年までに消滅する恐れがあるとの結論である。やや乱暴な議論であり、日本全体の人口減少という国レベルの問題を自治体の問題(自治体の努力不足)であるかのように議論のすり替えが行われている。何か意図的なものを感じるのは筆者の考えすぎだろうか。
出生率を上げて子育て環境を整備しても、「大学」と「企業」が大都市に集中しているため、人口が流出してしまうというのが地方の首長の主張だ。大学進学時の都道府県別流入・流出者数(2022年度)で、流入が流出を上回っているのは10都府県、反対に流出が上回っているのは37道県だ。流入の上位5都府県が東京、京都、大阪、福岡、愛知というように旧帝大の立地とオーバーラップする。長期間の流入・流出傾向が固定化し揺るぎないものとなっている。

2.日本国内の労働力不足問題
今、日本では、中小企業をはじめとした人手不足問題は深刻化しており、経済・社会の持続的発展・成長が阻害される懸念が出てきている。国内で不足している労働力人口確保のため外国人が「働き手」として期待されている。
人材不足が顕著な産業分野について専門知識や技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みを構築するために「特定技能制度」が2019年に創設された。
さらに今年になってからは、「特定技能制度」の対象にトラック運転手などの自動車運送業など4分野を追加し、対象分野を現在の12から16に広げる方針を閣議決定した。これによって、令和6年度から5年間の受け入れ見込み数は最大で82万人と推計している。
労働力人口確保のため今後さらに多くの外国人をスムーズに受け入れるためには、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進が不可欠である。
ダイバーシティ(Diversity)は、最近よく耳にする言葉である。直訳すれば「多様性」という意味であるが、さまざまな要素や異なる特性が存在することが閉塞感を打破することにつながることを期待して使われている。企業や団体にとって、国籍・性別・世代・障がいの有無など色々な違いを持った人たちが所属している状態を示している。多様性を肯定的に捉える考え方だ。
一方、インクルージョン(Inclusion)とは、「包含」とか「包摂」と訳され、多様な人材がお互いを認めつつ一体感をもって組織運営を行っている状態のことを指している。単に多様な人材が所属しているだけでは組織に具体的な成果をもたらすことができるとは限らない。多様な人材がお互いに相手を認め合い、多様な発想や感性を取り込むことによって組織を活性化することができる。
経営上の成果につなげようと、両者をつないでダイバーシティ&インクルージョンという考え方が広まってきた。
手前味噌ではあるが、弊社の場合、全体で190人ほどの組織であるが、前からいる外国人メンバーに加えて、今年さらにアジア各国の人材を積極的に採用してきた。それによって日本人にはない発想でビジネスチャンスを切り開いていくことが期待されている。
従来は日本企業が海外進出する際に外国人目線を加味したほうが、事業展開がうまくいくと考えて、現地法人に外国人社員を採用してきた。
外国人を日本に受け入れる場合にも外国人目線が必要なのは言うまでもない。

3.日本の子どもの減少問題
日本の15歳未満の子どもは1,401万人であり43年連続減少している。
総務省の発表によれば、日本の15歳未満の子どもの数は今年4月1日現在で1,401万人と43年連続の減少となった。
それによると、国内で暮らす15歳未満の子どもは、男子が718万人、女子が683万人のあわせて1401万人となっている。
去年と比べると33万人減っていて、1982年から43年連続の減少である。
年齢別でみると、12歳から14歳は317万人、0歳から2歳は235万人となるなど、年齢層が下がるほど、減少傾向が顕著である。
また、総人口に占める子どもの割合も去年より0.2ポイント低い11.3%と過去最低となり、1975年から、50年連続の低下である。
一方、子どもの割合を都道府県別でみると、去年10月現在で最も高いのは沖縄県で16.1%、次いで、滋賀県が13%、佐賀県が12.9%などとなっている。逆に最も低いのは秋田県(筆者の出身地)で9.1%、次いで青森県の10%、北海道の10.1%などとなっている。
女性1人が一生に出産する子どもの数を示した合計特殊出生率では、沖縄県内の市町村の多くが上位に入っている。
厚生労働省が先月発表した、一昨年までの5年間の平均値では、2.20の宜野座村や2.11の金武町、2.10の南風原町、2.07の久米島町、2.06の宮古島市など上位20の市町村のうち沖縄県内の自治体が12を占めている。(全国平均は1.33)
沖縄の古老は『私たちみんなの子どもだよ、子どもは宝物だよ』という。何と心に沁みる言葉であろうか。

4.まとめ
訪日外国人観光客は急増している。一部の人たちに大きな利益をもたらしていることは否定するつもりはない。
一方で、京都や鎌倉などの有名な観光地では、休日にあふれかえる大勢の観光客によって、もともとの住民が暮らしにくい状況になっており、深刻なオーバーツーリズム問題があるのも忘れてはいけない。
大きな要因は、急激な円安にある。日本全体がバーゲンセールをしているようなものだ。これは国力が低下している証左なのか。
先日、バイデン米大統領は日本を「外国人嫌悪の国」と呼んだことが大きなニュースとなった。
この発言そのものは支持者向けの内輪のもので、移民系市民へのリップサービスを多分に含んだものだった。
ただし、日本政府が移民政策に熱心でないこと自体は否定できない。
江戸時代の鎖国政策が尾を引いている。
外国人共生社会の実現には、まだ多くの課題がある。
前述した特定技能制度の延長線上には、永住者の増加がある。
日本人は自意識過剰なので「日本人による日本人のための日本」という純血主義が強い。
外国人への日本語教育推進、外国人への公的住宅優先貸与、外国人採用企業への補助金供与などの強力な政策は推進できるのだろうか。
日本の国力低下のわかりやすい例として、半導体産業が挙げられる。
筆者が銀行時代に半導体産業を担当していた1980年代は日本の大手メーカーは世界のトップを走っていた。
九州や東北地方に半導体工場が次々と建設されていた。それが今や熊本へ誘致した台湾のTSMCにすがるしかない状況だ。地方創生を旗印に国や自治体は巨額の予算を組みマネーを投じてきた。
それも早や10年になる。
それでも地方の人口流出や過疎化は止まらない。
何が根本問題なのか、はたして処方箋はあるのか。
日本の経済社会が抱えている「失われた30年」問題に出口はあるのか。

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