第833号コラム:西川 徹矢 理事(笠原総合法律事務所 弁護士)
題:「 ~ 防衛庁(省)・自衛隊の発足70周年記念日を経て ~ 気になったこと~
毎日の変化と「新たな伝統」に向けて」

 7月1日 防衛庁(省)・自衛隊の発足70周年記念日を迎えた。所要があり式典そのものには参加できなかったが、防衛庁に席を置いた者として、関心をもってマスコミ紙等の報道記事を追った。
 少々大筋を紹介すると、1945年8月5日終戦の詔書が出て、第2次世界大戦が終了し、1946年11月3日に現行日本国憲法が発布され、1947年敗戦から2年目に新生「日本国」が独立を迎え、1952年、そして1954年6月に、我が国で防衛庁設置法と自衛隊法が施行され、新国防官庁として「防衛庁・自衛隊」が誕生し、新たな国家機関として大きな第一歩を踏み出すことになった。
初代の木村篤太郎防衛庁長官は就任の挨拶として、新しい組織としての防衛庁及び自衛隊が発足するに当たり、職員に訓示を与え、その中で「職員は『新しい伝統』を自分達の手で作って行くという希望に燃えている」と語られ、自らに託された新生の組織を、職員一同と大いに盛り上げながら築き上げようという気概が伝わるものだった。部下を取りまとめ、鼓舞するに素晴らしく、また相応しいものであり、大変印象的なものであった。
 第二次世界大戦の終戦後2年を経て新生日本が独立を回復し、大戦後の混乱期の最中、身も心も無我夢中の状態で先人達は再出発をスタートしたところだったと思う。よくぞ焦土の中で「新たな伝統」に目を向けて頂いたと思う。
私は昭和22年、大阪近郊の下町で生まれ、幼児から子供時代を過ごした。伝統なる言葉も国家たる物が何たるかも全く分からない頃のことである。新設された防衛庁・自衛隊が我が国の防衛という崇高な任務を担い、爾来先頭を切って、新しく立ち上がり、営々と伝統を受け継ぎ、常にその完遂に励んでいたことに気付くこともない少年期であった。
防衛庁・自衛隊は、その後も営々実力を蓄え、現在もなお一層目まぐるしく変化を続ける国際情勢の中で、各時代の要請をじっくり熟(こな)しながら、その活動を洗練し地力を蓄え、拡大を続け、組織的には、2007年1月9日に長年の念願であった「防衛省」に組織替えが認められ、舞台をもう一段大きくして、引き続き着実にその伝統を培いつつ、国民の間にその存在を定着させてきた。
 少々飛ぶことになるが、現任の第25代防衛大臣木原稔大臣は、この70年目の記念すべき日に、国民に向かって「伝統を自らの手で作る」と改めて、大臣としてその決意を述べられた。そして、この機会に、防衛省の特定秘密案件等も含めた一連の不祥事案等を独自に調査した結果の一部を併せて公表し、不祥事事案について広く陳謝するとともに、防衛省の幹部をも含む200名以上の職員の不祥事案について厳正な処分等に付し、残余の部分の解明並びに今後の再発防止に努めることを世に約束され、大きな反響を引き起こされた。

 取分け、今回の発表の中でも、近年の我が国の安全保障問題は、国際情勢の厳しさを反映してか秘密等の違反に関連する事犯がかなり詳しく公表された。中にはこの種の秘密を専門的に取り扱っている者もいると言われ、この種不祥事の早期解明と同種事犯の再発防止の徹底的に努めるべきであるとの声も大きかった。特に、この特定秘密情報事案の取扱いは、機微にわたる部分があり得るため、これまでも、この分野の不祥事が発覚すると、マスコミを賑わせ「特定秘密保護法は、恣意的な指定の恐れがある」とか、「国民の知る権利や報道の自由を制約しかねない」といった反対勢力からの強い反発キャンペーンまでも在り得る。特に、事柄の性格上、安倍政権時代を中心に事犯や議論で取り上げられることも多くなり、安倍政権が対応策を押し切る形で成立させたとの抵抗形態を専らとする行動もあった。また当時の政府としても、一方で、安全保障上の機密情報を関係国と共有・運用するため不可欠なツールだという印象もあったが、我が国の場合は、その中で当事者的立場にある自衛隊が必ずしもリーダー的な動きが取れず相手側から信用を損ねかねない状況を強いられるのではないかとのリスクもあり得た。なお、組織的には特定秘密の運用を強力にチェックするため国会に情報監視審査会が設けられ、徹底した調査が行われるようになったと言われるので、この種の議論の時には有効な対抗手法にもなり得るのではないかとの意見もあり、今後の動きに注意を払う必要があると思う。

 また、木原防衛相はこの度の記者会見の中で、「今回の特定秘密の部外への流出は確認されていない」と発言されている。機密漏洩の再発防止策としては、CICに立ち入る可能性のある人物には全員、適性評価をクリアしてもらう案があるとも聞く。ただ、他方で現実の自衛隊の定員不足問題が極めて深刻だとも言われており、果たして厳しい現場の実態とかけ離れ過ぎていないか、また、臨機応変な対応に迫られる日々の任務の要請と両立し得るものであるのかについて、十二分な検討が求められようとも言われている。
 先の通常国会でも、経済安保情報の取り扱いに適性評価的な手法を導入するとも言われるが、その場合も、民間企業の社員も身辺調査等の対象となり、ここでも現行の自衛隊員が必要な対応措置を取り得る体制があるのかが問題となろう。

今回は、防衛省が臨時に様々な不祥事に自発的にメスを入れて対処し、自らの処分状況をまとめて発表した。その中に海自の潜水艦救難艦に所属する隊員の潜水手当4300万円(更に1000万円の追加被害があった由)の不正受給や、内部部局の一部官僚によるパワハラ等対策が広く取り込まれ、これらの処分者も含め、全体で218人に及んでいる。
 更には、潜水艦の検査・修理をめぐるK社からの裏金接待疑惑も特別防衛監察の最中にある。この機会に、すべての不祥事の膿を出し切り、組織の規律全体を締め直すことを視野に入れ、よって国民の厚い信頼を確保し、我が国の安全保障の第一歩たる伝統を確立するには良いタイミングだと思う。
 そのためにも、自らが真摯に取り組み、国民の信頼と支持を得なければならない。先ずは毎日の変化に正面から対応するという新たな伝統の一翼を築く気持ちで切磋琢磨し、一日も早くその目標に近づけるようになっていただきたいと思う。

 最後に、皆さんの益々のご奮闘とご繁栄を心からお祈りいたします。

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