第847号コラム:石井 徹哉 理事(明治大学法学部専任教授)
題:「詐欺広告のウエブサイトへの掲載について」
ウエブサイトに広告が表示されるようになって相当の年月が経っています。かつては、広告にマルウエアが仕込まれ、当該広告が表示されることによりマルウエアがダウンロードされて被害が生じうるようなものもありました。最近問題となっているのは、SNSなどに提供される広告内容が詐欺となるようなものです。某新聞社のウエブサイトの広告にいわゆるサポート詐欺が表示されることが話題となりました。また、著名人の名前を無断で借用して投資へと誘導するものについて、SNSのプラットフォーマの削除の懈怠が問題となっていたりします。サポート詐欺は、実際にはユーザの使用するPC等に何ら問題がないのに問題があるかのように警告を表示させ、OS提供会社のサポートの振りをして金銭等を騙取するものであり、詐欺であることに疑いはないでしょう。こうした詐欺の広告が自社の提供するウエブサイトやSNSで表示されている場合、企業のコンプライアンスの問題としてどのように対処すべきかが問われることになります。この問題を考えるときに、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」(平成11年法律136号。以下「組織犯罪処罰法」という。)の「犯罪収益等」に関する規定が一つの契機になるのではないかと考えられます。詐欺により奪取した財物等をこれを知って受け取った場合、組織犯罪処罰法違反となることは、いわゆる「頂き女子」事件の行為者から騙し取った金銭を受け取った者が同法違反に問われたことから周知のことではないかと思います(例えば、NHK NEWS WEB2024年8月19日:https://www3.nhk.or.jp/tokai-news/20240819/3000037029.html 参照)。
組織犯罪処罰法2条2項は、「犯罪収益」を規定しています(文末参照)。詐欺については、同法2条2項1号イが該当します。同号は、財産上不法の利益を得る目的で「死刑又は無期若しくは長期4年以上の拘禁刑が定められている罪」の犯罪行為により得た財産を「犯罪収益」の一つとして規定し、刑法246条の詐欺罪は、その法定刑が10年以下の拘禁刑となることから、長期4年以上の拘禁刑が定められている罪に該当します。したがって、サポート詐欺により被害者から奪取した金銭等は、犯罪収益ということになります。組織犯罪処罰法との関係でいえば、サポート詐欺は、団体の活動として詐欺の罪に当たる行為を実行するために組織的におこなわれたものといえるでしょうから(刑事裁判において立証できるかどうかは措いておきます。)、同法3条13号の組織的な詐欺の罪にあたることになるでしょう。
さらに、重要なのは、同法が犯罪収益の果実として得た財産、犯罪収益の対価として得た財産、これらの財産の対価として得た財産その他犯罪収益の保有又は処分に基づき得た財産を「犯罪収益に由来する財産」とし(2条3項)、犯罪収益と犯罪収益に由来する財産又はこれらの財産とこれらの財産以外の財産とが混和した財産を「犯罪収益等」としていることです(同条4項)。したがって、サポート詐欺を実行している組織ないし団体又は個人から広告を依頼され、広告代金を受領した場合、当該広告代金は、少なくとも犯罪収益に由来する財産ということになります。そのため、ある者がそのウエブサイトに掲載する広告を代理店に依頼して、サポート詐欺の広告掲載料金を受領した場合も、受け取った金銭等は、なお「犯罪収益等」に該当することになります。
組織犯罪処罰法は、情を知って、犯罪収益等を収受する行為を処罰しており(11条)、サポート詐欺を掲載したことにより広告代金を受領することは、客観的には、犯罪収益等収受の罪に該当することになります。もっとも、自社サイトにサポート詐欺の広告が表示されていることを知った以降は、知情のうえ代金を収受していることになりますから、11条違反の罪が成立することになるでしょう。もっとも同条は、処罰条件として、ただし書に、「契約(債権者において相当の財産上の利益を提供すべきものに限る。)の時に当該契約に係る債務の履行が犯罪収益等によって行われることの情を知らないでした当該契約に係る債務の履行として提供されたものを収受した者は、この限りでない。」とあるため、サポート詐欺の広告主から犯罪収益等を収受したからといってただちに処罰可能というわけではありません。しかしながら、犯罪収益等の収受に係る案件があることをこれを知って放置することは、企業におけるコンプライアンスのあり方として適切かどうかは問われることになります。リーガルリスクを相当程度高いものまで含めて受け入れるという企業の方針もありますが、ステークホルダーとの関係も含めて慎重な検討が必要ではないかと考えられます。
【参照条文】
組織犯罪処罰法2条2項
一 財産上の不正な利益を得る目的で犯した次に掲げる罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばこれらの罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により生じ、若しくは当該犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬として得た財産
イ 死刑又は無期若しくは長期四年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪(ロに掲げる罪及び国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号。以下「麻薬特例法」という。)第二条第二項各号に掲げる罪を除く。)
ロ 別表第一(第三号を除く。)又は別表第二に掲げる罪
二 次に掲げる罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばイ、ロ又はニに掲げる罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により提供された資金
イ 覚醒剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)第四十一条の十(覚醒剤原料の輸入等に係る資金等の提供等)の罪
ロ 売春防止法(昭和三十一年法律第百十八号)第十三条(資金等の提供)の罪
ハ 銃砲刀剣類所持等取締法(昭和三十三年法律第六号)第三十一条の十三(資金等の提供)の
ニ サリン等による人身被害の防止に関する法律(平成七年法律第七十八号)第七条(資金等の提供)の罪
三 次に掲げる罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばこれらの罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により供与された財産
イ 第七条の二(証人等買収)の罪
ロ 不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)第二十一条第四項第四号(外国公務員等に対する不正の利益の供与等)の罪
四 公衆等脅迫目的の犯罪行為等のための資金等の提供等の処罰に関する法律(平成十四年法律第六十七号)第三条第一項若しくは第二項前段、第四条第一項若しくは第五条第一項(資金等の提供)の罪又はこれらの罪の未遂罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばこれらの罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により提供され、又は提供しようとした財産
五 第六条の二第一項又は第二項(テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)の罪の犯罪行為である計画(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならば当該罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)をした者が、計画をした犯罪の実行のための資金として使用する目的で取得した財産
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