コラム第858号:「慶應義塾大学開催の第14回サイバーセキュリティ国際シンポジウム『国家安全保障、経済安全保障、社会保障のためのデジタル・サイバー安全保障戦略』について」
第858号コラム:手塚 悟 理事(慶應義塾大学 グローバルリサーチインスティテュート 特任教授)
題:「慶應義塾大学開催の第14回サイバーセキュリティ国際シンポジウム『国家安全保障、経済安全保障、社会保障のためのデジタル・サイバー安全保障戦略』について」
慶應義塾大学は2015年8月に、全塾研究センターとして「サイバーセキュリティ研究センター」を設立しました。その記念行事として2016年2月に開催したサイバーセキュリティ国際シンポジウムを皮切りに、毎年シンポジウムを行ってきました。今年度の10月に「慶應義塾大学サイバーセキュリティ研究センター行事『第14回サイバーセキュリティ国際シンポジウム』を開催しましたので、これについてご紹介します。
2020年度、2021年度のシンポジウムはコロナ禍での開催であったことから、オンラインで開催いたしましたが、2022年度のシンポジウムは、3年ぶりに慶應義塾大学三田キャンパスにて対面での開催を実施いたしました。2023年度と今年度も、対面でのシンポジウムを開催することができました。
世界のサイバーセキュリティに関する大学連携組織であるInterNational Cyber Security Center of Excellence (INCS-CoE)と、米国の非営利団体であるMITREが共同開催者となり、規模も今まで以上に大きくして、スピーカやパネリストは約200人の方々にご協力いただきました。規模を拡大した理由としては、昨今の国際情勢を見ますと、ウクライナ問題、台湾問題、さらにはパレスチナ問題と、我が国がいつこれらの問題に巻き込まれて、我が国の領土、国民が被害にあうかも分からず、予断を許さない状況になってきたことにあります。この背景もあって、今年度の登録者は昨年の約800人から約1100人となり、実際の参加者も昨年度の500人から約600人に上り、今までにない盛況ぶりでした。
今年度のテーマは、「国家安全保障、経済安全保障、社会保障のためのデジタル・サイバー安全保障戦略」としました。 それは、サイバーセキュリティがあらゆる安全保障に不可欠な要素となり、我が国におけるサイバーセキュリティのデジタル化の遅れが最大の問題であるとの認識の下、「デジタル・サイバー安全保障戦略」が必須であると考えたからです。本シンポジウムの目的は電力、通信、輸送、金融、医療などの重要インフラのライフラインをサイバー攻撃から保護するために、デジタル・サイバー安全保障を強固に構築することでした。G7、G20などの国や地域のサイバーセュリティの相違やギャップを検証し、そのギャップに対処し、信頼できる多国間パートナーシップを構築するためのデジタル・サイバー安全保障を確立することが極めて重要であると認識しました。
本シンポジウムでは、国家安全保障、経済安全保障、社会保障の各分野に関して、各国からの講演者やパネリストを招聘し、世界規模での産官学によるデジタル・サイバー安全保障に関する議論を同盟国・同志国で実施いたしました。スピーカやパネリストの方々を、より世界をリードする方々や直接現場に携わっているか方をお呼びしてシンポジウムの内容を充実いたしました。
国家安全保障では、ウクライナでのハイブリッド型の戦いと、それを教訓とした台湾問題の可能性の検証をしました。 Five Eyes、AUKUS、Quad、NATOなどの二国間・多国間組織がこうした国家安全保障上の懸念に取り組んでいます。 国家安全保障戦略については、積極的な防衛が議論されました。
経済的安全保障では、国家安全保障では政府が主役であるのに対し、民間が主役であることが最も重要であると認識しました。現在、民間企業は、レジリエントでかつセキュアな重要インフラ整備が重要であるとのことから、グローバルセキュアサプライチェーンやセキュリティ・クリアランスのテーマについてしっかりと対応していく必要があるとの議論が出ました。
社会保障では、国際的な国境を越えたデータ流通は極めて重要なテーマであることから、G7デジタル閣僚会議で強調された「Data Free Flow with Trust(DFFT)」を達成するために、国際的相互認証(International Mutual Recognition)が最重要課題であるとのことを議論をしました。昨年のG7でInstitute Agreement for Partnership(IAP)を創設することになりましたが、このIAPで国際的相互認証(International Mutual Recognition)をテーマとすることを、現在検討しています。
デジタルの世界では、物理的、技術的な境界は存在せず、国境もありません。国家安全保障、経済安全保障、社会保障を含むすべての領域は、デジタル技術に依存しているのが現実です。したがって、経済、食糧供給、金融、エネルギー、通信、輸送などの分野における脆弱性に関して、デジタル・サイバー安全保障がすべての領域に関係しています。その中で、特に「デジタル・トラスト」は、すべての領域において、安心、安全、レジリエントなデジタル環境を構築するために極めて重要な基盤となります。
そこで、今回のシンポジウムでは、政府、産業界、アカデミアが一体となった国際的なマルチステークホルダー・アクションに向けた議論を展開しました。 SDGs(持続可能な開発目標)やGX(グリーントランスフォーメーション)の一環として、カーボンニュートラル、国際資金移動、eIDAS(電子認証・トラストサービス)、5G/6G、AI、IoTイノベーションなどをテーマとしました。
基調講演、パネルディスカッション、専門セッションを行い、INCS-CoEパートナーが共有する国際共同研究、政策、教育項目について、日本、米国、英国、EU、オーストラリア、フランス等、さらには今年から参加のオランダ、ドイツと、国・地域の、デジタル・サイバー安全保障について活発に議論いたしました。
開催日は、2024年10月30日(水)~11月1日(金)の3日間でした。プログラムの詳細については下記URLをご覧ください。
https://symp.cysec-lab.keio.ac.jp/2024oct/index.html
ウクライナ問題、台湾問題、パレスチナ問題のリスクが高まる中、今回のシンポジウムは地政学的な世界情勢をタイムリーにとらえた大変貴重なシンポジウムになったと思います。デジタル・サイバー安全保障は、その中心的な存在として益々必要不可欠なものとなってきています。今回のテーマである「国家安全保障、経済安全保障、社会保障のためのデジタル・サイバー安全保障戦略」を改めて考える良い機会となりました。
以上
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