コラム第862号:「超限戦への対応」
第862号コラム:舟橋 信 理事(株式会社FRONTEO 取締役、株式会社セキュリティ工学研究所 取締役)
題:「超限戦への対応」
1月7日に、メタ社のCEOが、米国を皮切りに、同社が運営するフェイスブック等の「サードパーティによるファクトチェック・プログラムを終了し、コミュニティ・ノート・モデルに移行する。」との投稿を行った。同時に「主流な言説の一部であるトピックの制限を解除し、違法かつ重大な違反行為に絞って取り締まることで、より多くの言論を許容する。」、「政治的コンテンツに対しては、よりパーソナライズされたアプローチをとり、フィードでより多くの政治的コンテンツを見たいと思う人々が見られるようにする。」とも述べている。
<出典:https://about.fb.com/news/2025/01/meta-more-speech-fewer-mistakes/>
また、報道によれば、2月14日に開催されたミュンヘン安全保障会議での米国副大統領のスピーチにおいて、欧州の偽情報対策であるファクトチェックを検閲と批判し、欧州が米国と共有する価値観から離れていくことは欧州内部の脅威であると述べている。
さらに、1月21日には、ダークウェブ上での違法薬物売買等を行う電子商取引サイト「シルクロード」の創設者・運営者で、終身刑を受けて服役していた人物に対して、米国大統領の恩赦が与えられている。大統領選挙の際に、リバタリアン運動の会合での選挙公約を実行したとのことである。
<出典:https://www.cnn.co.jp/usa/35228542.html>
これらに共通するのは、インターネット上の「自由」である。ネット上に偽情報が紛れ込んでも、ネッ上の言論の自由に価値があるという考え方である。今後は、ウクライナ侵攻の口実の一つとなったと思しきロシア大統領のナラティブのようなプロパガンダも含めて、偽情報が、ネット上を徘徊することになるかも知れない。既にそうなっているかも知れない。
サイバー空間をめぐる前述の情勢は、自由と規制のトレードオフの関係であり、フェイクニュースの付け入る隙にもなっている。いわゆる「超限戦」を遂行する上で、格好の舞台が準備されてきているのではないかと思われる。
「超限戦」という言葉を聞いたのは、日本語版が発行されて間もない頃である。その頃、9・11事件を予言した図書として評判になっていた。著者は、喬良と王湘穂と言う二人の中国の軍人である。二人の研究成果として1999年2月に出版されている。同書の副題は「21世紀の『新しい戦争』」である。
9・11直後に出版された日本語版の「日本語版への序文」において、「超限戦」とは、「非職業軍人が、非通常兵器を使って、罪のない市民に対して、非軍事的意義を持つ戦場で、軍事領域の境界や限度を超えた戦争を行う」述べられている。
同書の内容をまとめると、以下のとおりである。
■兵器の新概念
・軍事領域を超えて、戦争に運用できる手段をすべて兵器と見なす
・身の回りにある日常的な事物を、戦争を行う兵器に豹変させる
■例示
・人為的に操作された株価の暴落
・コンピュータへのウイルスの侵入
・敵国の為替レートの異常変動
・インターネット上に暴露された敵国首脳のスキャンダル
■超限戦
・全ての境界と限界を超えた戦争
■戦場の変化
・真に革命的な意義を持つ戦場の変化は、非自然空間
・技術が作り出した「インターネット空間」などの「人工空間」
・いかなる空間も人類によって戦争の意義を付与されてしまう。場所、手段、目標を問わず、攻撃を仕掛ける能力さえあれば、そこは即座に戦場となる。
題目に示している「対応」について、個人が実行できることは、インターネットに関わるリテラシーの涵養であろうか。海外の両陣営のニュースサイトなどを閲覧して、国内で報道されていないことなどを知ることも大事なことかと思う。
以上
【著作権は、舟橋氏に属します】