コラム第908号:「人工知能基本計画から見る我が国のAI政策」
第908号コラム:須川 賢洋 理事(新潟大学大学院 現代社会文化研究科・法学部 助教)
題:人工知能基本計画から見る我が国のAI政策
政府の「人工知能基本計画」(*1)が公開された。昨年末令和7年(2025年)12月23日に閣議決定されたものである。(参考までに、同日にはサイバーセキュリティ基本法に基づく「サイバーセキュリティ戦略」、サイバー対処能力強化法(いわゆる能動的サイバー防御の法律)に基づく「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止のための基本的な方針」も閣議決定されている。)
この人工知能基本計画について簡単に紹介してみたい。
まず、この計画は昨年の通常国会で5月28日に制定され、6月4日交付、同日より一部施行、9月1日全面施行された「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和七年法律第五十三号)に基づいている。この法律は、法制定時より18条にて、基本計画を定めなければならないことがしっかり明記されている。このような、法律の基本骨格だけをまず急ぎ作って、詳細は後に定めなければならない文章のほうに持って行くというやり方は、最近のIT関連の法律の作り方の一つの特徴でもある。
まだ石破政権下であった時に制定され、9月の基本計画骨子案が出された時点で令和7年中の策定を目指すとされていた。その後、高市政権への移行があったが基本計画は遅れることなく予定通り公開された。冒頭に紹介した同日決定の他のドキュメントと合わせて見てみても、現政権でもそれだけこの分野を重要視している証と言えるだろう。
この人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律は、通常は日本版AI法と呼ばれることが多い。事実、政府でもAI法という呼称を使っているし、国の公式な法令データベースである「e-Gov」でも”AI法”と検索すれば同法がヒットする。しかしながら、日本版AI法は、同じAI法でもEUのものとは全く別なものであることに注意が必要である。そもそも分量からして大きくことなる。EU法は法律の本文だけでも113条あり、さらにそれに付属ドキュメント等が加わり、全て印刷するとA4で軽く200ページを超えるような分量になる。それに対して日本法は全28条の法文であり、印刷しても数枚で事足りる。法律の内容も大きくことなり、EU法はAIをリスクレベルに沿って4段階に分け、それぞれにリスクベースに基づいて様々な利用規制を行うことが目的である。一方で日本法は、我が国のAI技術やAI産業の育成・発展をその第一目的にしており、その為の意気込みを述べた基本法の域を出ていない。その為、具体的な施策として書いてあるのは、18条の基本計画の策定以外には、19条に政府内に人工知能戦略本部を設置することを定めてあるくらいである。ちなみに、同法制定時に、国が悪質なAI業者名を公表することができるようにしたとされているが、これも25条(資料の提出その他の協力)を根拠に国の調査権限があることから来ているもので、条文に明確に記述されているわけではない。
さて、人工知能基本計画本文であるが、こちらも全15ページとそれほど多くはない。前述のように9月に骨子案が公開され、最終文章もそこから大きな方針変更なく定められている。そして最大の特徴、というより基本計画の骨格とも言えるのが、第2章に定められている「3原則」と「4つの基本的な方針」になる。すなわち
3原則
・イノベーション促進とリスク対応の両立
・アジャイルな対応
・内外一体での政策推進
4つの基本方針
1.AI利活用の加速的推進(「AIを使う」)
2.AI開発力の戦略的強化(「AIを創る」)
3.AIガバナンスの主導(「AIの信頼性を高める」)
4.AI社会に向けた継続的変革(「AIと協働する」)
としており、それぞれについて3~4行程度の解説(趣旨)が記載されている。斬新なものではなく、むしろAIに関してかつてから色々と言われていたことを再確認した意味合いが強いと思われるが、”アジャイル”などといった言葉を前面に押し出してくるところは官庁の定める文章としては新しい取り組みなのではなかろうか。
筆者が思うに、基本方針に関しては、この四分類は、そのままAIにおける問題点や懸念点であるとも言えるし、また、組織内のAI利用規定やガイドラインを作る際の項目立てとしても利用可能であるとも言える。つまりAIにおける様々な問題や対策の分類はこの四項目に合わせて作ると良いということになる。もちろんこれは、デジタル・フォレンジックにAIに導入する時にでも当てはめることができる。
計画には、この後、3章以降に政府としてAIを重視しAIの積極導入するための具体的な施策や分野などが記されており、日本がAIの一流国になろうという意気込みは強く伝わってくる。ならば次に必要なものは、EU法のような利用に際しての具体的な注意事項を定めた文章であろう。
(*1)https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/aiplan_20251223.pdf
【著作権は、須川氏に属します】

