コラム第912号:「防犯カメラの効果」

第912号コラム:舟橋 信 理事(株式会社FRONTEO 取締役)
題:防犯カメラの効果

 今日、駅や商業施設、商店街、住宅地、コンビニ等、各所に防犯カメラが設置されているが、防犯カメラは実際にどのような効果をもたらしているのだろうか。本稿では、犯罪統計や実証研究を基に、防犯カメラの「捜査への貢献」と「犯罪抑止効果」についてご紹介したい。
 防犯カメラが警察庁の犯罪統計項目として初めて加えられた平成28年当時、刑法犯全体のうち「防犯カメラ等の画像」が主たる容疑者特定の端緒となった割合(警察庁の犯罪統計データを基に計算。以下同じ。)は4.6%であった。殺人等の凶悪犯に限れば6.6%である。
 他の主なフォレンジック手法と比較すると、指掌紋は0.6%、DNA型は0.4%である。
 一方、職務質問は14.0%と比較的高い割合を占めており、現場警察官の活動が依然として重要な役割を果たしていたことが分かる。
 しかし、令和6年(公表されている最新の犯罪統計)では状況が大きく変化している。刑法犯全体における「防犯カメラ等」の割合は17.6%と、平成28年の約3.8倍に増加した。凶悪犯では14.9%に達している。ドライブレコーダーを除いても17.3%であり、固定式の防犯カメラの寄与の大きさがうかがえる。一方で、指掌紋(0.8%)やDNA型(0.4%)の割合は大きな変化がない。さらに注目すべきは、職務質問が7.6%と、平成28年からほぼ半減している点である。なお、デジタル・フォレンジック(パソコン・携帯電話・通信ログ解析を示し、平成28年の犯罪統計には項目が立てられていない。)では2.8%であった。
 この変化は、映像という客観的データが、容疑者特定の端緒として、従来型の人的捜査に匹敵、あるいはそれ以上の役割を担うようになったことを示している。
 
 ラトクリフ(2006)は、防犯カメラの効果を次のように整理している。
 主たる効果は犯罪抑止である。カメラの存在が潜在的犯罪者に認知され、逮捕リスクを高めることで犯行を思いとどまらせる。
 副次的効果は、設置地区住民・来訪者に対して安心感を与え犯罪不安を低減すること(犯罪不安の低減)、撮影した画像を用いて被疑者を特定すること(捜査支援)、潜在的犯罪者は防犯カメラの位置を正確に把握していないために、防犯カメラ設置地区周辺の犯罪も減少すること(利益の拡散)などを挙げている。
 一方で、意図しない悪影響として、防犯カメラ設置地区では犯罪が減少するが、周辺地区の犯罪が増加すること(犯罪の地理的転移)、防犯カメラ設置によって、犯罪が増加していると住民が認知し、犯罪不安をより感じるようになること(犯罪不安の増加)、防犯カメラ設置によって、これまで認知されていなかった犯罪が認知され、見かけの認知件数が増大すること(認知件数の増加)といった意図しない影響も指摘されている。
 つまり、防犯カメラは「万能の解決策」ではなく、設置方法や運用のあり方によって効果が左右される政策ツールなのである。
深谷昌代(2017)による大阪市での実証研究事例は、防犯カメラの効果を具体的に示している。分析には、大阪市及び大阪府警が設置した防犯カメラ約2800台の設置状況のデータ及び大阪府警の窃盗犯罪認知件数データが用いられた。
 犯罪類型は、空き巣及び忍び込みを「住宅関連窃盗」、車上狙い、部品狙い、自動車盗及びオートバイ盗を「自動車関連窃盗」、ひったくり及び路上強盗を「路上窃盗」として、3種類の被説明変数で分析が行われた。
 分析の結果、次に示すとおり犯罪類型ごとに異なる影響が確認された。
• 設置町丁目では住宅関連窃盗が減少した。
• その周辺では住宅関連窃盗が増加した。(地理的転移)
• 路上窃盗では設置地区・周辺地区とも減少した。(利益の拡散)
• 自動車関連窃盗では設置地区で減少していたが、周辺地区では地理的転移や利益の拡散が有意に起きていることは確認できなかった。

 以上のとおり、防犯カメラは、容疑者特定の端緒としての役割を飛躍的に高めるとともに、一定の犯罪抑止効果を有することが犯罪統計及び実証研究から確認されている。他方で、犯罪の地理的転移などの副作用も存在し、その効果は犯罪類型や設置方法によって異なることも明らかになっている。
 今後、防犯カメラをより効果的な安全対策として機能させるためには、単に設置台数を増やすのではなく、犯罪発生状況の分析に基づく計画的な配置、警察・自治体・地域団体の連携、さらには効果検証の継続的な実施が不可欠である。また、映像データの適正管理やプライバシーへの配慮を徹底し、社会的信頼を確保することも重要であろう。

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