コラム第915号:「AIの光と影」

第915号コラム:伊藤一泰 理事(近未来物流研究会 代表)
題:AIの光と影

いまやChatGPTやGeminiなど、日常生活の中でAIが使われることが多くなっています。

もちろん筆者も利用者です。ちなみに、このコラムもAI(copilot)の助けを借りていることをお断りしておきます。「さっそく白状するのかい!」と言われそうですが。

さて、このコラムを執筆するにあたり、2月24日に開催されたIDF「法務・監査」分科会で、「ディープフェイクをめぐる法的問題」と題した、九州大学の成原 慧 先生のお話をお聞きすることができました。また、コメンテーターの先生方や参加者の先生方から多くのご示唆をいただきました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

◆AIの「光」の部分、すなわち、AIが我々に貢献し、有益なものであることに異論はありません。仕事を楽にして、生活に潤いを与えている点については、多くの識者・研究者によって言い尽くされています。一方で、企業の業務にAIを導入するケースが急増しています。最近では、メガバンクの「みずほFG」が、事務部門の業務にAIを本格的に導入し、大幅な効率化を図るとの報道がありました。これによって、事務部門の余剰人員(5000人)を営業部門などにシフトさせるとのことです。ヒトの仕事が「AIに奪われる」ということが形になってきました。経営側にとっては、人件費の抑制につながり、収益拡大に寄与するものとして評価される話ですが、事務部門一筋に頑張ってきた人が、急に営業の仕事になじめるのか心配になります。

https://news.yahoo.co.jp/articles/aa9684c9bb6a92527f2bef729f0b4ff5fe61d779

◆AIの「光」について、個人的には、将来への期待が現実のものになったことが最大の利点だと思っています。僕らが子供のころ、「鉄腕アトム」がヒーローでした。アニメ主題歌には、「10万馬力の・・・」とあり、想像もつかないけれど、とてつもないエネルギーを持つヒーローなのです。最大時速マッハ10のスピードで空を自由に飛び、サーチライト付きの目を持ったヒト型ロボットです。ロボットなのにヒトと同じような感情を持ち、喜怒哀楽があるところが魅力でした。最近のAIロボットには、感情らしき仕草をするものもあらわれており、アトムまでもう一歩のところまできています。ちなみに新幹線(N700系16両編成)は1万6千馬力らしいです。(※copilotに聞きました。)アトムはその6倍以上の馬力です。

1960年代当時はAI(人工頭脳)という言葉もなかった時代ですが、架空のスーパースターの活躍にワクワクしました。アトムのほかに「エイトマン」というヤツ(サイボーグ?)も人気がありました。アトムが健全で明るいキャラクターだったのに対して、エイトマンは少し暗い目をしていました。また、定期的に口にするタバコ型の強化剤(原作では原子炉がメルトダウンするのを防ぐ冷却剤)が少しダークな印象でした。さらに、後日、作画の桑田次郎の銃刀法違反やアニメ主題歌の歌手の刑事事件もあり「呪われたアニメ」という酷いレッテルを張られたことも記憶にあります。でも新鮮だったのは、エイトマンが新幹線(0系)を追い抜いて疾走するシーンでした。

ついでに言うと、「スーパージェッター」というアニメがありました。約1年間という短期間の放送でしたが、僕らにはインパクトがありました。これは「空飛ぶクルマ」に乗って未来から来た少年の話です。今や「空飛ぶクルマ」は実証実験の段階にあり、市街地の上空を飛ぶのも時間の問題のようです。これもAIなくしては実現できないと思います。

少し話が脱線してしまったので、もとに戻します。

◆ところで、AIについて「社会受容性」はどうなっているのでしょうか。

AIというイノベーションがスムーズに社会に受け入れられるのかどうかという論点です。

参考事例として、明治安田生命保険のアンケート調査「AI上司について」があります。

https://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2025/pdf/20260225_01.pdf

アンケートの対象者は、「この春新入社員となる学生880人と現役社会人880人」なので、主に若手社員の意見だと思われます。それによると、「上司がAIでも良いか」という質問に対して、「とてもそう思う」が8.1%、「どちらかといえばそう思う」が22.6%で、肯定的にとらえている人が30.7%に達したということです。

同社のプレスリリースには、AIの普及状況からみて3割の数字は「意外とまだ少数」と記載されていますが、筆者はびっくりしています。例えば、課長100人(100ポスト)のうち、70人のヒト課長と30人(?)のAI課長の会社は、まだ想像がつきません。

もし、表に見えるのは70人のヒト課長だが、そのバックに30人のAIロボットがいて、全体として「100人分の課長の仕事をしている」というのなら理解できますが、AIロボットに対し「あの、明日、有給休暇をいただきたいのですが・・・」と申請するシチュエーションは想像できません。もちろんAIは単なる「窓口」であって「労務管理者」ではないと理解していますが、それでもAIに休暇申請する姿は、どうにも想像がつきません。

AI上司が良いという理由は、「AIはパワハラや不機嫌な言動がない」ということのようですが、はたして、今後もずっと「AIなら人格者」なのでしょうか。というのも、AIロボットをペットにした場合、ヒトとのコミュニケーションが上手なAIロボットと、そうでもないAIロボットがいるからです。あるセミナーで筆者が実際に体験したことです。その経験から、ヒトがロボットをきちんと躾けられるか、やや疑問に思うところです。犬や猫のようにペットならば、ときどき言うことをきかず、不機嫌そうに“見える”ロボットがいてもよいのですが、上司ロボットがそうなったら困ります。

ChatGPTやGeminiなどAIがあれば、仕事や学習において、自分自身のアシスタントとして、または記憶の代替装置(外部記憶装置)として、時短が図られ、簡単に情報処理ができてしまいます。「なんと便利な社会になったことだろう!」本当に嬉しいことです。やはり「光」そのものです。学生やオフィスワーカーの大半が利用するのも納得です。

◆AIの「影」については、以下の三つの懸念事項があげられます。当然ながら、この懸念事項は筆者の個人的考えによるものであり、ほかの研究者から見れば、解決可能なことであり「懸念には及ばず」なのかもしれません。

◆懸念事項の一つ目は電力です。実は、AIの利用を支えるデータセンターは、膨大な電力を消費します。その消費量は以下のように報告されています。

「現在、日本で稼働中のデータセンターの電力消費量は、2024年では19TWhですが、2034年には、約3倍の57〜66TWhになると試算されます。これは、実に約1,500万〜1,800万世帯分の年間電力使用量に相当します。」(※ウッドマッケンジーのレポートより)

https://www.woodmac.com/news/opinion/ai-power-and-the-new-geopolitics-of-energy2/?ite=31984&ito=847&itq=7c0d13c2-9ca7-4f6f-bd6e-64d7056bd107&itx%5Bidio%5D=6924110

すでに、総務省と経済産業省は、2025年3月に「ワット・ビット連携官民懇談会」を立ち上げ、電力(ワット)とデジタル(ビット)を一体で整備する方向性を議論しています。2025年6月の「取りまとめ1.0」では、データセンターの地方分散や脱炭素化、送配電網の高度化などが論点として整理されており、電源近接型データセンターは政府の中長期ビジョンにも組み込まれつつあるテーマです。とは言いつつも、その対策と効果が、データセンターの開設スピードに間に合うのかどうか、注視したいと思っています。

世界全体でみたデータセンターの電力需要は、発展途上国の急激な経済成長により、日本単体での数字をはるかに凌駕する数字になるでしょう。今後、世界中でAIの利用が拡大していけば、それに伴って世界の電力需要も急激に増加していくのです。一方で、米国・イスラエルがイランを攻撃し、イランが報復措置としてホルムズ海峡を封鎖するなど、エネルギー需給に大きな影響を与える事態となりました。紛争が長期化した場合、日本の原油確保がどうなるのか、ちょっと怖い気がします。

日本の電力需要の見通しについては、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が2025年1月に公表したデータがあります。それによると2034年度には2024年度比で5.8%の増加が予測されています。この組織は一応中立的な機関ですが、やはり経産省の考えが裏打ちされているように思います。そのため、公表されたデータは「大騒ぎにならない程度」の控えめな予測に感じられ、ホントはもっと急激な電力需要増大を招くかもしれません。(※あくまで筆者の個人的意見です。)

◆二つ目の懸念は、半導体です。

電力需要拡大の要因として、データセンターに並んで、半導体関連の電力需要があります。AIの急速な普及により、半導体需要も急拡大することが予想されます。そのため、日本でも、アメリカや中国に負けまいと、熊本のTSMCや北海道のラピダスに官民挙げて巨額の出資をしており、多額の補助金をつぎ込んでいるのです。

AI が必要とする高パフォーマンスな推論タスクを実行し、大量データを同時に処理することができる「GPU」という汎用性の高い半導体が多く使用されています。GPUの説明については、以下のKDDI資料を参考にしました。

https://biz.kddi.com/content/column/smartwork/what-is-gpu

GPU製造がAI利用の拡大に追いついていけるのかどうか、さらに、このGPUの製造過程で膨大な電力を消費し、結果として、一つ目の懸念を増幅させていると思っています。

◆三つめは、AIのみならずネット社会全体の問題です。現在、インターネットの伝送路は、国際海底ケーブルに依存しています。なんと国際通信の99%(データ通信量ベース)が国際海底ケーブルを経由している状況です。詳しくは以下の総務省資料をご覧ください。

https://www.soumu.go.jp/main_content/001040293.pdf

ケーブルは海底にあるので、普段は意識せずにいるのですが、2024年から2025年にかけ、バルト海で、何者かの仕業で(某国が故意に切断したと言われています)物理的にケーブルが切断される事案が発生しています。また、日本の近海でも、2025年2月に台湾沖のケーブルが切断され、ニュースになりました。

https://gendai.media/articles/-/162853

これらの事案を考えると、有事の際に、相手国の通信を混乱させようとして、故意に切断しているのではないかと懸念が広がっています。地政学リスクとして真剣に取り組まないといけない課題です。

◆AIというのは、比喩的に言えば怪物・魔物(筆者のイメージはリヴァイアサン)かもしれません。使い方次第で我々人類への脅威となる懸念があります。AIとどう折り合っていくのか、利点を活用しながら罠にはまらないようにするために、我々も考える必要があります。開発・活用だけの「光」の視点から脱却し、罠の存在や対応すべきリスクがあるという「影」を知らせる仕組みが求められています。

言うまでもないことですが、AIに対するセキュリティ確保は我々の課題です。AIロボットの自律的行動が事故をまねく心配もあります。自動運転は、センサーとAIの組み合わせで急速な技術革新が進んでいます。バスやトラックのドライバーが不足していることから、国や自治体が積極的に後押ししています。その先には、自動運転事故の責任が誰にあるのか、深刻な議論が待ち受けています。また、子供にとって、いまや「遊び場」となったAIの世界です。フェイクニュースや犯罪につながる「危険区域」には何らかの目印が必要となります。今後は、AIの普及推進とともに、情報弱者に対するケアも忘れてはいけません。AIが我々の手を離れて、勝手な動きをしないよう監視する方策を考える段階だと思います。

◆先週のコラム第914号で、丸山満彦氏(IDF監事)が「AI同士が自律的に連携して生じた結果」について、責任の所在、原因の特定、さらに再発防止に関して論じておられ、デジタルフォレンジクス技術がますます重要になってくるとのご指摘をされております。筆者も全面的に同感です。

最後に、IDFとして、「(仮称)AI分科会」を立ち上げて、デジタル・フォレンジックに大きく関わるAIについて詳細な議論をしてみてはどうか、という提言をして、本稿を締めたいと思います。

以上

【著作権は、伊藤氏に属します】