第1号コラム:上原 哲太郎 理事(京都大学 学術メディアセンター)
題:「デジタル・フォレンジックのコミュニティ」

世界中の情報科学分野の研究者が参加する、情報処理国際連合(IFIP)という団体があります。情報通信技術(ICT)関連の学会の国際連合というとわかりやすいでしょうか、日本の情報処理学会、米国のACMとIEEE CSをはじめとして、世界50カ国以上の学会が参加する連合体です。

このIFIPの第11技術委員会(情報セキュリティ)に、第9ワーキンググループ(WG)としてデジタルフォレンジックのWG(略してIFIP WG11.9と呼びます)が設立されたのが2004年のことです。以来、このWGが主催する国際会議が例年開かれていますが、その第4回となる国際会議ICDF2008はこの1月に京都大学で開かれ、私は地元のお世話役を仰せつかっていました。本研究会にもご後援いただいたこともあって、盛会のうちに無事終えることができまして、ほっとしております。

この国際会議には、デジタルフォレンジックに関心を持つ様々な分野の方が集まってきています。もちろん従来の情報科学分野の研究者、特に情報セキュリティ分野の研究者が多いのですが、画像処理の研究者がデジタル画像の証拠性を扱う研究を発表するなど、これまで情報セキュリティと距離のあった分野の研究者も参加しています。さらに、鉄道や自動車の事故の解析のために運転者の操作を記録しておくイベントレコーダの記録を評価する研究発表などもあり、もはや情報科学や法学関係だけではなく、あらゆる研究がデジタルフォレンジックと見なされていることに驚かされます。一口で「電磁的証拠」といっても、その広がりの大きさや評価方法の多様さを改めて思い知らされながら、毎年この国際会議に参加しています。

このようにIFIP WG11.9自身は大変活発な国際的研究コミュニティなのですが、残念ながらIFIP全体としては最近その活動が低迷傾向なのではないかと言われています。日本の情報処理学会や米国のIEEE CSも、近年その会員数の減少に苦しんでいます。その原因は色々考えられるでしょうが、私自身は社会全体が「個」にシフトしてきたことも遠因ではないかと思っています。ICTは一般人=Commonsをエンパワーする技術ですが、それで力を得た「個」がSociety=社会や学会の力を相対的に小さくしてしまい、その魅力を失わせつつあるのかもしれません。

この傾向が社会全体に及んでいるとすると、本研究会の将来も危ういわけですが、私は楽観的な予想をしています。ヒトは結局は社会的な生き物ですし、個の力には明らかに限界があります。何よりデジタルフォレンジックのような、間口も守備範囲も極めて広い分野を扱う際には、個がその全てを把握することは大変難しいはずです。私自身、本研究会には、私個人の力ではどうにもならない部分について他の理事や会員の皆さんのお知恵を拝借したり、異分野のモノの見方・考え方から刺激を受けたりすることに大きな魅力を感じて、本研究会に参加しています。この魅力がある限り、本研究会というコミュニティは全世界的なICT学会活動の低迷という現象とは無縁に維持できると思っています。

ここまで考えてふと、面白いことに気づきました。法律は社会のカタチの大枠を決める働きをしていますが、その法をICTでエンパワーするのがデジタルフォレンジックではないでしょうか。ICTが個を肥大させすぎるとコミュニティを危うくしかねませんが、法をICTで支えることによってコミュニティの崩壊を防ぐ、そのための鍵となるのがデジタルフォレンジックなのかもしれません。

だとすると、本研究会の主要な活動のひとつである「デジタル・フォレンジック・コミュニティ」のネーミングは、うまくできているなぁとちょっと感心してしまったのでした。今年の年末も、会員の皆様とあの場でお目にかかれますように。そして、コミュニティの力を感じることが出来ますように。

追伸:コミュニティのチカラを感じるためには12月を待つ必要はございません。

よろしければ6月5~7日に開かれる「第12回 サイバー犯罪に関する白浜シンポジウム」にも   ぜひお越し下さい。本研究会も後援しています。詳しくはhttp://www.sccs-jp.org/をご覧下さい。※リンク切れ

第12回 サイバー犯罪に関する白浜シンポジウムのご案内

「国民総ネット化時代の情報安全教育」

 

インターネットの普及・ブロードバンド化やケータイの高度化に伴い、老若男女問わずインターネットに参加できる時代を迎えました。Web2.0という言葉に象徴されるような、新しいコミュニケーションの形態を軸にビジネスが生まれている反面、インターネット詐欺や出会い系サイトでのトラブル、自殺やいじめサイトなど新たな問題が発生しています。特にネット参加率が高い割にはセキュリティリテラシの低いような子どもや若い世代にとって、サイバー犯罪は交通事故と並んで被害に逢い易く、また容易に加害者にもなる身近な問題となったといえるでしょう。

第12回を迎えた白浜シンポジウムでは、「国民総ネット化時代」に際し、特に情報セキュリティリテラシの低い人々にどのように教育をしていくべきかを考えたいと思います。その議論の土台として、特に子どもの世界においてネット上で何が起きているのかを洗い出し、その問題を解決する方策について知恵を出し合いたいと考えています。

■ 日 程 平成20年6月5日(木)~7日(土)

■ 会 場 「コガノイベイ」ホテル(和歌山県白浜町)

■ 主 催 サイバー犯罪に関する白浜シンポジウム実行委員会

・情報システムコントロール協会大阪支部

・和歌山大学

・近畿大学生物理工学部

・白浜町

・和歌山県

・和歌山県警察本部

・特定非営利活動法人情報セキュリティ研究所

■プログラムなど詳細についてはhttp://www.sccs-jp.org/をご覧下さい。※リンク切れ

■お申し込み・お問い合わせ

〒646-0011 和歌山県田辺市新庄町3353-9

和歌山県立情報交流センター Big・U内

特定非営利活動法人情報セキュリティー研究所(担当/植谷)

TEL & FAX 0739-26-7100

E-mail shirahama-sympo@riis.or.jp

 

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