第17号コラム:須川 賢洋 理事(新潟大学 法学部 助教)
題:「デジタル・フォレンジックと知的財産権」

デジタル・フォレンジックという言葉は非常に広範囲に使われており、使う際にはきちんと範囲を限定すべきだということは既に何度もこのコラムで書かれています。この事は裏を返せば、日本ではまだまだデジタル・フォレンジック分野における未開拓領域が多くあることを物語っています。

 今回はそんな領域の一つとして知的財産との関係を少し述べてみたいと思います。よって今回は、単なる犯罪捜査などに留まらない”広義”のデジタル・フォレンジックの話となります。

 「デジタル・フォレンジック事典」出版の際には時間的な制約等から、営業秘密(トレードシークレット)の解説以外には、残念ながらデジタル・フォレンジックと知的財産権との関係については殆ど触れることができませんでした。しかしながら、知財とデジタル・フォレンジックは決して無関係ではありません。このことは、過去のデジタル・フォレンジック・コミュニティや分科会、事典説明会の折りには少しずつですが述べているので、ご記憶にある方もいるかと思います。今回は、その辺りをもう少しだけ詳しく解説してみたいと思います。

 知的財産権といっても著作物を保護する著作権と、発明を保護する特許などの工業所有権(産業財産権)とでは、そもそも、その性格が異なるため、デジタル・フォレンジックとの関係や利用されうる方法も当然異なってきます。

 著作権とデジタル・フォレンジックの関係で一番分かり易く、また利用可能性があるものは、「電子透かし」技術でしょう。デジタル情報はコピーが容易であるため簡単に複製物が出回り、著作権侵害が起きやすいことはさんざん言われている通りです。そこで、その出典元を明らかにするための手法として使われるのが電子透かし(ウォーターマーク)です。形式は様々ですが、お札の透かしと同様、普段は見えませんが専用のソフト等にかけると、著作権の所在などの権利情報が表示されます。

 あらかじめ、ネット上に流通させる写真や音楽などにこれを埋め込んでおけば、もし不正に自分の著作物が複製された場合、その証拠とすることができるわけです。また、これは必ずしも著作物に限定した使い方ではありませんが、最近は文章ファイルにも電子透かしを埋め込むことができるので、その文章の出典や流出元を探し出すことも可能です。この機能は企業の機密文書の流出チェックなどにも利用可能です。

 一方、特許の場合はどうかというと、デジタル・フォレンジックは主に特許権侵害の有無についての検証に使われることが多いでしょう。当然ですがこの場合は、デジタル・フォレンジックを行う先は、対象の発明品自体に対してではありません。その製品を開発する際に扱ったコンピュータ上にある様々な記録になります。この場合は通常の訴訟におけるデジタル・フォレンジックやe-Discoveryの使われ方とさほど変わりません。相手のコンピュータ上にこちら側の特許を侵害した痕跡がないかを、あるいは自身の側のコンピュータ上の記録でなんら不正を働いていないことを立証するということが行われます。

 また、(この制度はいずれ変更になるという前提で話をしますが、)現在のアメリカの特許制度は、日欧のような先願主義でなく、先発明主義という方式を取っています。そのため、先に発明していたことが立証されれば、発明者はそちらのほうになってしまいます。
サブマリン特許(潜水艦特許)という言葉が使われるのはこのためです。従来は、企業の研究開発部門は、この先発明の証拠とするためにきちんと日付入りで署名された業務日誌を残していました。現在はそれがデジタル的な作業記録に変わっていることは言うまでもありません。つまり、自らの先発明を立証する手段としてもデジタル・フォレンジックが使われる可能性があります。

 このように著作権と特許の最初の外周部分だけでも、デジタル・フォレンジックの使われ方とそれに伴う法的問題はいくつもあげられます。さらにリバースエンジニアリングなどに伴う問題など、これから更なる研究が必要な領域も多くあります。「法務・監査」分科会では、皆さんのご協力を得てこれらの研究も少しずつ進めていければと思っています。

 さて、話は飛びますが最後にイベントの案内です。デジタル・フォレンジック・コミュニティの姉妹シンポである「ネットワーク・セキュリティ・ワークショップin越後湯沢」が今年も10月に開催されます。基調講演者の町村先生をはじめ当研究会の理事の方や関係者も多く講演されますので、その随所にデジタル・フォレンジックの話も登場するはずです。

 また、本ワークショップの“売り”として毎回大変ご好評頂いております10/9(木)の「ナイトセッション」や10/10(金)の「車座会議」も期待を裏切らない企画とメンバーにより構成されておりますのでお楽しみに(この内容紹介等は逐次、本ワークショップのメルマガでご紹介して参ります)!

皆様ぜひ、湯沢ワークショップにもお越し下さい。
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ネットワーク・セキュリティワークショップ in 越後湯沢 2008
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http://www.yuzawaonsen.gr.jp/conf/program.html ※リンク切れ
10月9日(木)~10月11日(土)
テーマ:『セキュリティの光と影』
主な講演予定者:
 町村泰貴 氏 「CGM時代のビジネスとリスク対応」
 秋山昌範 氏 「(仮)マネジメントにおけるセキュリティを考える」
 高木浩光 氏 「(仮)最近のセキュリティ技術動向」
 名和利男 氏 「(仮)企業内におけるインシデントレスポンス能力の実情とその強化策」
 島田裕次 氏 「内部統制と情報セキュリティ」
 坂  明  氏 「『健全で安心できる』○×△ネット社会」
 堀合啓一 氏 「(仮)最近のマルウェアと解析技術について」
 佐藤慶浩 氏 「情報セキュリティ対策実施手引書について」

会  場: 湯沢町公民館 / 湯沢ニューオータニホテル

参加費: 15,000円、学生6,000円
 ※全てのセッションへの参加費と資料代は含みますが宿泊費等は含まれません。

申込方法: 本ワークショップWebページ
http://www.yuzawaonsen.gr.jp/conf/program.html より  ※リンク切れ

問い合わせ先:実行委員会事務局
 〒951-8067 新潟市中央区本町通7-1153 (株)アットイーズ内
 [TEL] 025-227-1411 [FAX] 025-227-1412
 [E-mail] yuzawa-office@anisec.jp