第243号コラム:木原 京一 幹事(株式会社UBIC 執行役員)
題:「文書管理とeディスカバリ」

 皆様、本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

 eディスカバリ対応において、IT技術のアドバンテージが高ければ高いほど、かかる手間や工数、コスト削減などを可能にし、訴訟戦略を有利に運ぶことが可能です。
もちろん、デジタル・フォレンジック技術が証拠開示において成否を分けるポイントとして、大きな役割を担う事は皆様ご周知の通りです。また現在、米国を中心として、eディスカバリにおける最先端のトレンドは、TAR(Technology Assisted Review)と呼ばれる、高い技術力を擁しリーガルプロセスで最も工数のかかるレビュー(文書仕分け)を劇的に減少させる、ITハイテクノロジーです。

 日本に限らず、韓国・台湾などアジア諸国の大手企業も、国際競争力の向上を課題にまい進していく中、国境を超える法的リスクを鑑みれば、早々にアジア特有の言語処理の問題をクリアし、このハイテク主導の流れに合わせ、eディスカバリの対応を実施していかなければ、グローバル化においての大きなリスクを免れなくなります。

 前置きが長くなりましたが、本コラムでは先に挙げたハイテク主導でのeディスカバリ対応と合わせ、実際に現場でサポートをしている立場から、別の視点で成否を分ける大きなポイントとして、文書管理とeディスカバリについて考えてみたいと思います。
 
 最近では、ビックデータなるキーワードでも表されている様に、情報通信、とくにネットワークやIT技術の発達にともなって爆発的に増大した構造化されていない莫大な量のデータが企業運営を悩ませています。少し前のITトレンドでは、様々な形でのアーカイブITソリューションで、肥大化する企業所有データを如何に圧縮して保管するかでしたが、日々増大するデータ量に対して大企業が自前のアーカイブで対処療法的にデータを処理していく事は大変難くなってきています。この事象の影響を工数と手間とコスト、という大きな負荷としてもろに直撃してしまうのが、まさにeディスカバリ対応です。

 企業所有データの爆発的増加は、文書管理がまだ未整備な企業を圧迫します。日本企業やアジア企業では、TAR(Technology Assisted Review)を活用するレビュー(文書仕分け)の前段階、つまり初期のeディスカバリ作業対応において時間を要し、つまずいてしまうケースが多くみられます。それは、企業内にある文書全体を把握できていない為に、保全するデータの特定(Identification)に長い時間を取られてしまうということです。これはインシデント発生時のデジタル・フォレンジック調査などでも同じことが頻繁に起きています。なぜならば、多くの日本企業は文書管理において、全ての社員とその人が関わったデータを一元管理出来ていない事が要因として考えられます。

 例えば、Aさんの過去5年間にわたる、電子メールとデジタル・データをフォレンジック・サウンド(※)で取得してください。という指示があった場合、Aさんが過去5年間の間に、転勤と、子会社出向をしており、さらに、デジタル・データの一部を個人所有の外付けメディアで持ち帰り等を行っていた場合、保全するデータの特定だけで、法務・情報システム部門に留まらず、対象者が在籍していた当該部門や人事総務も巻き込んでの大変な作業である事が想像いただける事でしょう。
(※注記)
フォレンジック・サウンド:データに改変・改竄が起こらない措置を施してデータを取得すること。

 日本企業特有の情報取得の難しさの例は、他にも多くあります。子会社、関係会社を含む複雑な組織形態への対応や、部門ごとで自由に購入・管理されてしまっている外部メディアデバイスやファイル管理(「野良サーバー」などという表現で、情報システム部門から諦め気味で揶揄されている管理不行き届きの端末も存在します)、さらに平時における情報管理教育の不足など。デジタル・フォレンジック技術どころか、最先端のリーガルハイテクノロジー活用まで行き着く前に、暗礁に乗り上げてしまう環境も実際の現場では起きています。

 また、別の視点からの問題として、こうした日本の大企業のまだまだ未整備で大きな課題としている文書管理に関して、弁護士や米国の専門業者Legal Process Outsourcing(LPO)ベンダーでは『想像しにくい事象』であるということです。米国企業基準を中心に考えられているため、彼らには、先進国日本の、それもeディスカバリに巻き込まれたグローバル化している相応の国際企業・・が文書の特定に時間が掛かる事が想定出来ません。場合によってはなかなか理解をしてくれない、受け入れてくれないといったケースもあります。

 eディスカバリの経験やデジタル・フォレンジックによる調査経験のある企業、これらのリスクに関して今後真剣に憂慮している企業の多くは、膨大な電子データとどう向き合うべきか、そもそも論に立ち戻り、平時の文書管理を様々な切り口から模索し始めているようです。ここで申し上げる文書管理はITツールなどに頼り、自動化されるべきものではなく、現実的かつ、有事の際に機能するルール作りとして見直されるべきだと考えます。

 リーガルリスクを最小限までにコントロールし、国際競争力を維持するためには、最先端のハイテクノロジーを取り込む事が重要です。しかしながら、この技術を生かすためには土台となるべく平時の運用、それは経験や実務に基づいた文書管理もポイントです。そしてIDFの具体活動に明示されている三番目の「デジタル・データの保全、解析、保管等の取り扱い手法に関して適切に行われているかを議論する事により、相互の法的権利を正しく守る活動」、この活動こそ、今現在多くの日本企業が課題として抱えている文書管理の見直しに大きく貢献できるものであると言えるのではないでしょうか。

【著作権は木原氏に属します】