第343号コラム:安冨 潔 副会長(慶應義塾大学名誉教授・弁護士)
題:「年末のご挨拶」

デジタル・フォレンジック研究会は、情報セキュリティの一分野である「デジタル・フォレンジック」の啓発・普及、調査・研究事業、講習会・講演会、出版、技術認定等の事業を通じて、健全な情報通信技術(IT)社会の実現に寄与・貢献することを目的として、2004年9月に発足し、本年は、10周年を迎え、11年目に入ることができました。
5月13日に開催された第11期の総会では、今後ますます求められるデジタル・フォレンジックの人材育成を推進するために、「DF人材育成」分科会を設置し、2015年1月から開催すること、また今日のデジタル・フォレンジックに求められる技術に関して、「データ消去」や「日本語処理解析性能評価」の分科会も新設することが承認されました。
さて、本年最後のメールマガジンをお送りするにあたり、デジタル・フォレンジック研究会の今年の10大ニュースを考えてみました。

1 「改訂版デジタル・フォレンジック事典」刊行
2006年にさまざまな分野の専門家の執筆による「デジタル・フォレンジック事典」を刊行しましたが、研究会10周年を記念して、会員の皆様のご尽力を得て改訂版を本年4月に刊行することができました。初版の刊行後のデジタル・フォレンジックに関する諸問題が新たな項目として追加され、まさに時宜を得た内容の事典となりました。

2 「証拠保全ガイドライン」の公開
これまでもデジタル・フォレンジックに必須の証拠保全のポイントをとりまとめたガイドラインを研究会では公表してまいりましたが、近日中に第4版を公開できる段取りとなっています。もう少し早く公開する予定でしたが、諸般の事情で遅れてしまっています。しかし、このガイドラインは、民間でのデジタル・フォレンジックにおける基本となるものといえるでしょう。

3 「デジタル・フォレンジック・コミュニティ2014」の開催
12月8日及び9日に「ビッグデータ時代のデジタル・フォレンジック-予兆把握、自動処理に向けて-」を開催できました。ビッグデータという今日にふさわしいテーマで開催できました。ビッグデータを巡る諸問題をはじめとする基調講演や、「デジタル依存された大規模イベントにおけるサイバーリスクへの対応」(「研究会1」)では最近のサイバーリスク対応への課題を討議し、「ビッグデータによる法制度への影響」(「研究会2」)では、法制度面の整備動向や指針提示を行い、「デジタル・フォレンジック人材育成カリキュラム等の検討」(「研究会3」)では、DF人材育成カリキュラムに必要な内容を検討しました。これまでのデジタル・フォレンジック・コミュニティでは過去最大の343名が参加していただきました。

4 第4回IDF講習会の開催
9月に第4回のデジタル・フォレンジック製品の紹介やトレーニング概要説明会を開催しました。これまでの3時間のレクチャーによる「通常コース」以外に1日の「簡易トレーニングコース」を設置し、実機や実ソフトに触れる講習を初めて実施しました。デジタル・フォレンジックへの関心をお持ちになられたさまざまな分野で仕事をしておられる多くの方が熱心に講習に参加されました。

5 「技術」分科会の開催
「技術」分科会では、7月に「情報窃取型サイバー攻撃対策にネットワーク・フォレンジック活用の試み」(第1回)、「データベースを中核とした縦深防御(多層防御)構想」(第2回)、さらに11月に「端末保護・監視に必要なCPU視点によるインテリジェンスの活用」(第3回)を開催しました(詳細は、研究会のホームページをご覧ください)。

6 「法務・監査」分科会の開催
「法務・監査」分科会では、7月に「民事証拠法実務の基礎」(第1回)、9月に「パソコン遠隔操作事件の教訓―サイバー犯罪対策の観点から―」(第2回)、12月に「米国電子証拠判例紹介2014」(第3回)を開催しました(詳細は、研究会のホームページをご覧ください)。とりわけ第2回の分科会では、社会的に関心をよんだいわゆるパソコン遠隔操作事件の弁護人・特別弁護人からご講演をいただき、分科会としては異例な参加申し込みをいただき、事件から学ぶ教訓を参加者の方々と熱心な議論がなされました。

7 コラムの連載
2008年5月から毎週コラムを配信してきましたが、今回で343号となります。理事を中心にそのときどきの話題について技術・法律・監査など他分野にわたった学際的な内容となっています。本年上期からは製本で会員のみなさまに提供することとしています。

8 会員数の増加と事務局の新体制
デジタル・フォレンジック研究会の会員数が、個人会員233名、団体会員50団体、学生会員7名、特別会員3法人(JASA、JNSA、DRAJ)となり、省庁オブザーバーも46名と過去最大の会員数となりました。ますますデジタル・フォレンジックの重要性と関心度の高まりを期待して今後もいっそう増加するように期待しております。
また、事務局も新たに要員を補充し、いっそうみなさまの要望等に答えられるように体制作りをしました。

9 辻井顧問の受賞
これまで長きにわたって研究会の会長を務めていただき、いまは顧問としてなにかにつけアドバイスをいただいている辻井重男顧問が第10回「情報セキュリティ文化賞・特別賞」及び「2014年度C&C賞」を受賞されました。

10 デジタル・フォレンジックの普及と研究会の発展
どうしてこれが10大ニュースなのか?と思われるでしょう。設立当初から副会長として辻井前会長、佐々木現会長をお支えしてきました。研究会を設立してしばらく、どうすればデジタル・フォレンジックの認知度をあげられるのだろうか、実社会で具体的にどのように利活用されるのだろうか、と不安に思うこともありました。研究会設立から10年、情報社会も大きく変化しました。デジタル・フォレンジックも普及し、研究会も発展することができました。
今後は、ますます重要性をますと思われるデジタル・フォレンジックについてみなさまとともに研究を深めて、設立の目的にかなうような活動ができるようにしていきたいと思っています。

よき年をお迎えになられますように祈念して、年末のご挨拶を今年最後のコラムとさせていただきます。

【著作権は、安冨氏に属します】